ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)
いい本に出会いました。
今年もたくさんのいい本に出会いましたが、この本が今年読んだビジネス書でNO.1だと思いました。
概念を説明するための例えが非常に的確で、わかりやすい。実例も豊富で、引用も的確。学者が書いた本にありがちな抽象的でわかりにくいという先入観を覆す、わかりやすく為になる本です。
表題どおり、「1つの物語として語れる」ということを常に念頭に置いて、打ち手を考えなくてはいけないことを改めてはっきりと認識させられました。
「1つの物語として語る」ということは、ハウツーものによくありがちな、「このやり方をすれば成功する」とか「この指標で管理することが重要だ」というような断片をいくら寄せ集めても、全く役に立たないことを意味しています。
また成功者には、よく「先見の明があった」という表現が使われることが多いのですが、先見の明という新たな切り口に気がついても、実はそれだけでは成功はしないことも、改めて認識しました。
成功のためには、1つ1つの工夫を繋げていって、1本の合理的なストーリーに仕立てていく必要があることがよくわかりました。
先進的なやり方の多くは、それだけを抜き出すと不合理だと広く認識されているのに、いくつもの工夫が繋がったビジネスモデル全体の中では、それが合理的に働いてるということも、新たな視点を与えてくれたように思います。
さまざまな実例が紹介されていますが、一番印象的だったのが、アメリカの航空会社の例でした。一般的には一番効率の良い航空網は、“ハブ&スポーク方式”と言われていますが、この航空会社は、地方と地方の空港を結ぶ路線に特化し、座席予約も廃止しているという常識に反するやり方をしています。ところが、実はこれは顧客運賃を圧倒的な低価格で抑え、バスと全く同じ感覚で多くの人に利用してもらうという目的のためには合理的でした。地方空港ゆえ、飛行機の待機待ち時間が少なく、稼働の回転を上げられる。空港利用料金が安い。予約を廃止することで、事務コストの低減、搭乗時間短縮などが可能になります。不便な部分もあるでしょうが、あくまでも軸は「バス感覚での大量のお客さんの利用」であり、それが今の世の中、圧倒的に支持されており、米国航空会社で一番の収益を稼いでいるということでした。
目からウロコの実例が多く、参考になります。人の心をよく観察することの大切さと、打ち手を合理的な因果関係で結びつけていくことの大切さを教えてくれる、非常にいい本です。
スタバではグランデを買え! ―価格と生活の経済学
本書はスタンダードなミクロ経済学の立場から、
多くの人が考える以上に「取引費用」が大きな価格要因になっていることを、
缶ジュースの価格がいろいろとばらついていることを例に説明します。
また企業はできるだけ価格差別化を図って、
払う気の強い客には高く、払う気のそれほどない客には安く売ることによって
総収入を最大化しようとしていることを、
スタバのサイズ別価格がなぜ原価の増加分が数十円程度でも、
はるかに大きな100円という価格差で売られているのか、
また携帯電話のプランにはなぜあまりにも多くの種類があるのか、
などを説明します。
また、工場生産における「追加的な」費用に着目することで、
なぜ百円ショップにデパートで買えば、千円にもなるような
ちゃんとした商品が並ぶことがあるのかを説明します。
総じて、現代経済では人々の直観とは相いれないようなことがありますが、
それが以外とちゃんとした理由がある点を説明しているすばらしい経済入門書です。
最後に著者が指摘しているように、
子供の医療費をタダにするというのは耳当たりが良く人気がある政策ですが、
これでは、実際には暇の余っている人が高所得者の妻など利益を受ける一方で、
暇のない母子家庭の子供が逆に不利益を受けるだろうという指摘は、
経済学者以外からは決して出てこないことでしょう。
できるだけ多くの人が人々のインセンティブと行動について
本書をとっかかりにして理解してもらいたいと思います。