空が青いから白をえらんだのです ―奈良少年刑務所詩集― (新潮文庫)
「奈良少年刑務所詩集」で
「くも」という題名に「空が青いから白を選んだのです」
このたった一行の「詩」
それを詩集の「メイン」タイトルに選んだことが
この詩集のすべてを語っていると思いました。
「空が青いから白を選んだのです」の詩を書いた本人
この詩をタイトルにした編者・寮美千子さん
編者は「たった一行に込められた思いの深さ」
「そこからつながる心の輪」と語っております。
「心に届く」ということの見本のような詩集です。
詩集を通して、壁を越え空を超えて、心に届きました。
何という素敵な詩集でしょう。
日本全国の子どもたちに読んでいただきたいものです。
子育てに悩んでいる親たちにも励みになるでしょう。
夢見る水の王国 上 (カドカワ銀のさじシリーズ)
新人オペラ歌手のマミコが海辺の小さな町に訪れます。少女時代、マミコは祖父さんと二人、ここにある別荘で暮らしていました。その縁で、新ホールのこけら落とし公演をすることになったのです。
懐かしい別荘での一夜、マミコは不思議な夢を見ます。一人の少女が父王に捨てられ、泣き叫ぶ姿。彼女を守ろうとする謎の少年。いったい何?
翌日、コンサートは大成功しますが、そのことより気に掛かるのは、少女の記憶です。
マミコの祖父は妻が亡くなった後、残された娘を育てる自信がなく、全寮制の学校に任せてしまいました。今度はその娘が、まるで自分を育てなかった代わりに、孫娘を育てなさいとでも言うかのように、マミコを祖父に預けたのでした。そして祖父は昔、子育ての喜びを放棄したのが、なんと愚かだったかを知ります。
一見幸せそうに暮らす祖父と孫娘。しかし・・。
ここから物語はマミコをファンタジー空間へと連れて行きます。記憶を失ったまま彼女はミコとなり、彼女から分離したマコ(魔子)を追う旅が始まるのです。なぜ、マミコはミコとマコに分離してしまったのか? マコは何を探しているのか? ここは本当に別世界なのか? 失われた記憶と、この世界の関係は?
謎は謎を生み、どんどん膨らんでいきます。導いてくれる魔法使いも、助けてくれる騎士も出てきません。読者はミコと一緒に、時にはマコと一緒に、この旅を続けていくしかないのです。
謎解きがつまらなくなりますから、ヒントは「愛の記憶」とだけ言っておきましょう。
様々な神話・伝説・昔話の断片や、想像力によって生まれた鮮やかなイメージが、これでもかこれでもかと押し寄せてきます。決して読者に親切な物語ではありませんので、転覆しないための舵取りには、多少の腕が必要でしょう。ですから、シンプルな冒険ファンタジーを好みの人は手を出さない方がいいです。
ラジオスターレストラン 千億の星の記憶
情報に溢れてしまい、何が真実なのかわからなくなっているこの時代だからこそ、多くの人にこの本を読んでもらいたい。
核を抑止力という人、核のない世界こそが真の平和だという人。後者はどうしても理想論だと嘲笑されがちです。でも考えてみてください。誰もがわかっているはずなのに、なぜ目を逸らすのでしょう?
児童文学でありながら、人類の犯してきた罪から目を逸らさずに描かれたこの作品は現代社会に対する警鐘であるのと同時に、作者の願いが込められていると思います。
夢見る水の王国 下 (カドカワ銀のさじシリーズ)
海辺の町「天羽」で一人ひっそりと暮らす初老の男・香月光介。
生まれて間もない子を香月に預け、遠つ国へ旅立つ香月の一人娘・美沙。紗(うすぎぬ)をまとったオペラ歌手・香月万美子。
郵便配達夫、虚ろ舟の伝説、月の拝殿の大長老、
雲母を掘り出し、夢を世界へ解き放つ老鉱夫、
愛車「ペガサス号」にまたがり「天羽」の町で暮らす青年、
風を呼ぶ歌を歌う町の男とその家族、
猫族の王になることを拒みマミコと共に生きることを選択したぬばたま、
木馬、火と水の龍、まつろわぬ民の少年、
橋のふもとのあばら家で細々と生きる全盲の老人、
極楽鳥、村長、片目の黒豹、
水の図書館に降り立つ魔の童子、
鴉頭の闇夜王、月の神殿の神官マニ、
帰らぬ女王を待つネズミ、
物語の登場者が下巻末の
「美しき未来の記憶、ここにはじまる」
の一言で生き生きと甦り、再び息吹き始める。
あたかもひとつきかけて地球の周りを巡る月の軌跡にも似たこの物語の仕掛けに、物語の語り手としての作者の力量に驚嘆せざるを得ない。
生きている物語とはまさしく、この本の語りそのものなのであろう。
と同時にこの物語は一人の少女の「成長物語」である。
(あなたは目覚めるしかないの)
(取り返しのつかないことなんて、ないの)
という言葉には
人の心の成長を見守る温かな愛情から発芽した豊穣の趣がある。
ニンゲンに対する深い想いがなければ描けない一つの成長物語だ。