海の仙人 (新潮文庫)
単行本で読みました。
絲山作品は,男女の関係を描いたものが多いが,「孤独」というものを絶妙なタッチで描いている。
愛におぼれるでもなく、孤独にひた走るのでもない。
すぐそこに人肌の温度が感じられるからこそ、孤独が輪郭を表すのだ。
登場人物はみな,「人間は孤独である」ということを真っ向に捉えている。
孤独というものはそういうものだ。
彼らはその孤独を紛らわそうとはしていない。
他者のことを考えているようで,結局は自分の孤独について考えている。
それぞれお互いの目を見ているようで,
その視線は相手の目を透き通り、
自分の内面を見つめている。
敦賀の誰もいない海岸で,
みんなが思い思いの方向を,
遠い目で見ながら,
その視線は交わらない。
そんな情景が思い浮かぶ。
ファンタジーが,「孤独というのは人間の心の輪郭」のようなことを言っていたのが印象的だった。自分の中で,絲山作品ベスト1。
自分が本当にそう思っていないことを、幸か不幸か、書けてしまう作家はいる。
しかし、絲山さんのブログを拝見していると、やはりこの作品は彼女にしか書けないのだと思う。
妹たちへ2
日経ウーマンのファンで“妹たちへ2”を心待ちにしていました。人生簡単に渡り歩いているように見えた成功者の方々も実は若い時は色んな事に悩み、迷いながら道を切り開くためにもがいてきた経験が、赤裸々に書かれています。
私も30歳手前で人生の方向性に迷った時、“妹たちへ”を何度も読み、励まされ新しい道に進むきっかけにもなったと今でも思います。
前回に引き続き魅力あふれる女性たちのエッセイばかり、何度も読み返すこと必至!ぜひ多くの女性が出会ってほしい一冊です。
妻の超然
絲山さんの作品を女性が読むと、共感を覚えるのかもしれません。
絲山さんの作品を男性が読めば、グサリとくるセリフや表現があるでしょう。
本作は「超然」をめぐる3つの作品が収められています。
いろいろな立場で色々な視点があり、面白いです。
1)妻の超然
少々、捻くれてしまった50近い女性の心理と、無神経な夫の心理。
不倫をめぐる心理描写(というか脳内会話)も、生活をめぐる描写も一つ一つが巧いです。
この短編の「超然」という言葉の結末は予想外のカタルシスがあります。
2)下戸の超然
30前後の男女をめぐる話。
善悪をめぐる議論、いろいろと面倒な周辺の事情が面白いです。
この短編の「超然」で描かれる現代の青年の絶望に、男の読者は胸を抉られるでしょう。
あと、出てくる食べ物が美味しそうなのが印象的ですね。
3)作家の超然
病気の作家をめぐる話。「おまえ」という二人称で進みますが、絲山さん本人の心境が
投影されているようにも思われます。「生死」に関わる話をしつつも「超然」とした態度で
メディア批判をする作家というもの、これがこの短編のポイントの一つだと思います。
文士としての作家の在り方とは何か―この問いから作家は超然としていられるのか?
そして、最後の4ページに亘る告白ともいえる文章の意味は何なのか?
私は「文士」絲山秋子氏がどのような答えを出すのか、気楽な気持ちで待ち続けたいと思います。
ラジ&ピース (講談社文庫)
東京生まれの自分にいまひとつ自信が持てないラジオのアナウンサーが北関東の群馬に心機一転してFM放送に再就職。そこで起こる日常を描いた作品、「ラジ&ピース」と、男と女の関係の妙を女の側からある意味本音で見せた「うつくすま ふぐすま」の2本の短編集です。
絲山さんは他者との関係性の微妙さを描き続けていると私は思っているのですが、今回はその他者が飲み友達だったり、同僚だったり、昔の彼氏だったりするのですが、今回はさらにその上に匿名の不特定多数のリスナーを相手としているところが今までと大きく違うところだと思います。それだけに意欲作ともいえると思います。もちろんいつもの絲山さんの文章ですから、非常に読みやすく、それでいて気持ちの良い距離感があります。しかし、私には閉じた関係、2者か3者くらいがやはり面白く感じられます。
それでもラジオのパーソナリティの特異性というか、可能性を感じさせる出来栄えに、また現代日本の女性の生態にリアリティがあり、スマートでそしてちょっと変わっていて、良かったです。主人公の野枝がラジオという媒体の内向きか、外向きかに気付かされる場面は好きです。
また、短いながらも「うつくすま ふぐすま」も本音と、男気ある女の生態がストレートに語られていて良かったです。飾らない言葉と態度が微笑ましいですが、昔からきっと女の方が男気あるんですよね。最後のセリフがあまりに凄くて私は好きです、たとえ言われる側に立っていたとしても。
現代の女の生態(のひとつであることは間違いない)に興味がある方に、ラジオが気になる媒体だ、という方にオススメ致します。
袋小路の男 (講談社文庫)
前作「海の仙人」の余韻が消えることなく残っていたのか、思わず手にした本でした。
書評の純愛に関しては、これがまさに純愛だと思う人もいれば、こんなのは純愛では無いと思う人もいるだろうし、各人のとらえ方によって異なってくると思うので、この作品=純愛とは、言えない様に思う。
しかし、この作中の男女には、まさに絶妙の距離感が有り、二人の不即不離の関係がたまらない感を与えているように思う。
互いの存在が互いの心の片隅で、常に消えることの無いものとして色濃く描かれていて、作中脈々と流れている。
前作「海の仙人」でも感じたが、この作家さんは、人と人の距離感を実に上手く描く人だと、改めて感心させられた。