四畳半襖の下張 [DVD]
音声として流れてくるのは、永井荷風著と言われる『四畳半襖の下張』の朗読と BGM 及び効果音のみである。出演者の台詞は一切ない。しかし、この手法は悪くない。本作品が重要視したと思われる、男女の内面の機微(女の内面は作者の想像によるものだが)が、出演者の演技のみによる場合よりもうまく描き出されているからである。
そして、本作品のメインとなっているのはある一晩の情交で、全体の半分を占めている。男女間の行為や心理をここまでピンポイントで捉えようとした作品は他にないだろう。究極のポルノ作品と呼べるのではないか。
後に三浦敦子に改名した村上あつ子の初主演作品であるにも関わらず、本人も事務所も現在そのことに触れないのは、台詞が全く無く、主演男優のホリケン。との裸での絡みがほとんどと言う演出のためか? 女優としての肩書きに傷のつく、知られたくない過去なのかもしれないが、三浦敦子ファンなら押さえておきたい作品である。
脇役の女優陣(國貞加奈、森未向、幸さえこ、笠原けいこ、小代恵子、中谷友美、坂口絵里子、竹之内かな)もほとんどのシーンでトップレス状態だが、白塗りメイクと顔のアップがあまり無いため、エンドロールを見るまで、そんなに多くの出演者がいたことには気付かない。
墨東綺譚 [DVD]
遊郭に
「世の中の真実がある」というスタンスで映画が進行しますが
「遊郭に身を落とした人間は結局は幸せになれない」という結末を持ってくるあたり、見ていて少し辛い。ここを最初と最後に出てくるストーリーテラー役の「作家」にうまく語らせているところはうまい。
この映画のよさは、そんなところではなく、何気ないせりふが、かなり粋だったり、男と女、はいつでもどこでもそんなに変わらないということを語っている点です。
山本富士子さんの、引っ付くくらいの、男にまとわりつく愛情の表現はすごく良い。それが一番の見所です。あれくらい素直な愛情表現ができるといいねえ。
墨東(ぼくとう)綺譚 (岩波文庫)
昭和10年頃に書かれた作品。「わたくし」という一人称によって
話が進められて行くのを素直に信じて、荷風が過ごした自らの生
活から一夏の思い出を書き留めたものと受けとめたい。荷風のほ
とんどの作品同様、描かれているのは娼妓の街である。「わたく
し」とは、ほぼ荷風その人と考えてもよく、また、そうであった
方が読み手にとっての興味も増す。荷風という作家ほど、作品以
上に作家としての生き方、特に老境に入ってからの生き方そのも
のが人を惹きつける作家は少ないからだ。この作品中に描かれる
銘酒屋の街、寺島町界隈の記述が一種の爽やかな風のように僕達
を包み込んでくれるのは、憧れの人である荷風が日和下駄、よれ
よれのシャツ、膝小僧の部分が擦り切れそうなスボンといういで
たちで、飽きることなく路地から路地へと散策する、それにお付
き合い出来る楽しみをこの本が与えてくれるからだと思う。
荷風の散策が僕のような貧しい凡人と違うのは、彼にはお雪とい
う女が独りで住む家に寄って休息する楽しみもあることだ。ただ
し若い頃から娼妓の街に入り浸り、女の性(さが)を知り尽くし
たような荷風は、お雪との関係もはかないものであることをはな
から悟ったうえでのお付き合いである。お雪は確かに荷風にとっ
ても特別に活き活きとした女性であったが、荷風の散策の中での
涼やかな一風景に過ぎないのである。
昔も今も日本の夏は暑い。荷風もしきりに暑がっていた。娼妓の
家の側には溝が流れ蚊が群れ飛んでいた。蚊帳を吊り、蚊取り線
香を炊き、団扇を扇いで夏をしのいでいた。現代はクーラーをつ
ければ室内は涼しい。しかし街全体はヒートアイランドと呼ばれ
る灼熱の地となった。どちらかといえば生活内容は退歩している。
文化的に見ても、荷風の使っている何とも言えない味のある日本
語のかなりの数が現代では消えてしまった。現存する言葉を大切
にして、現存する言葉の中から表現道具を探す努力が足りないと、
古い言葉は消えて行く。そうすると文化の継続という面では大い
にマイナスである。今年3.11以後、「はっさい」なる言葉が
しきりに発せられた。えー?という気持ちで僕はそれを聞いてい
た。野菜が芽を出すんかいな?とさえ考えた。文脈から「発災」
であろうと解したのだが、辞書にもない言葉をテレビでいきなり
言い出したのは一体誰なんだろうか?
墨東綺談には余録があって、荷風が古本屋で何度も顔を合わせる
うちに、互いに尊敬措く能わざる関係となった神代帚葉翁との交
友が語られている。帚葉翁は荷風とほぼ同年齢くらいの人だった
が荷風より老けて見えたのかもしれない。この二人が銀座の古い
カフェー万茶亭のポプラの木の下のテラスで、常識には欠けるが、
ある種のことには恐ろしい造詣の深さを示す会話を交わしながら
夜の更けるのも忘れた日々があったことに、僕は心を洗われるよ
うな爽快さを感じた。
摘録 断腸亭日乗〈上〉 (岩波文庫)
川本三郎がおのれを「仮託」する永井荷風のことは「墨東奇談」の作者で晩年は浅草を愛しストリップ見物をしていた変わったおじいさんとしか知らない。この「日乗」とは日記のことである。何でも鋭く博識なサド裁判で前科1犯の東大仏文で荷風の後輩?渋沢龍彦は「思考の紋章学」収録の「セクスアリス」で日記の日付けの上の小さな「黒丸」にまた鋭く眼をつけた。この「黒丸」こそは荷風が***をいたしたマークなのである。うーむ鋭い!戦後は「白丸」になる。荷風は別名でいわゆる「ポルノ」を書いたというから別に不思議ではない。読んだことない。渋沢はまた「鋭く」荷風の性生活を「自己運動する機械の健康である」と指摘している。つまり谷崎のような脚フェチやマゾヒズム。川端康成の少女趣味、処女好きではない、ということ。荷風にとって性は「観念」でないとも。だから「健康」さらにサド裁判で光栄ある前科1犯の渋沢はサド侯爵の「日記」を論じるがそれはまたね。余談だが小生は真中さんや則子さんに「いじられる」と気持ちがよく、ひょっとしたらMでないか?と悩んだことあったがMでも「それでいいのだ」と思うことにした。私は「天才バカボン」におのれを「仮託」している。川本=東大法学部とバカだ大学の学歴の違いである。前科1犯でも渋沢や川本の東大出は違うよ。私は前科2犯で「勝ってる」が。ははは。
墨東綺譚 [DVD]
借りてみたけど、まあまあ、面白かった。「墨東綺譚」も
「断腸亭日乗」も未読だけど、大作の「断腸亭日乗」は
ともかくとして、「墨東綺譚」は読んでみたいという気に
なった。
硬派の作品が多い新藤兼人がなぜ軟派(?)系のこうい
う作品を作ったのか、動機は不明だけど、芸域の広い監
督なんだなあと、感心。
津川雅彦は結構アクの強い、見ていてイライラするキャ
ラを演じたりすることが多いような印象があったけど、こ
の作品では淡々と「枯れた」荷風を好演していて、感心。
墨田ユキは初めて見たけど、なかなか魅力的な俳優だ
なあと、これまた感心。スリムで色白での肢体はなるほ
ど、AVで充分、通用するなあと納得。
お雪と結婚の約束をしたのかどうか、しながらためらっ
たのは原作通りなのかどうかは、未読の私には不明だ
けど、双方の切々たる思いはイマイチ、伝わらなかった。
戦後、浅草寺の前でスレ違うのは、翻案なんだろうな。