人間の條件〈下〉 (岩波現代文庫)
国境守備隊はソ連軍の圧倒的な軍事力の前に崩壊・全滅した。その中には主人公梶の学生時代・会社時代の友人も含まれていた。梶は生きて妻・美千子に会うために必死の退却を行う。
彼を慕う部下や途中で合流した敗残兵とともに小戦闘を繰り返しながら家路を目指す。生きるために民間の非戦闘員が巻き込まれることにも目をつぶらなくてはならなかった。しかし必死の逃避行も民間人を連れて逃げていたが故に投降し、捕虜となり収容される。収容所での過酷な生活を知恵を振り絞りながら生き抜くが、かつて梶の目の前で非人道的な行いをした兵士が、今度は収容所内で部下を殺し、梶は復讐のために彼を素手で殴り殺し、収容所から脱走する。一路家路を目指すが、敵国日本人のしたことを忘れない中国人に半殺しにされたり、飢えながらも美千子に会いたい一念で逃避行を行う姿は人間の情念の凄まじさを感じる。
極限下で生きると言うことの厳しさと人間性を考えさせられる一冊である。
戦争と人間 DVD-BOX (初回限定生産)
やや値は張るが、購入するのであればやはり作品世界を味わい尽くすためにも(1)佐藤勝の手になる三部作を彩る見事な「メイン・タイトル」など全57曲を収録したサントラCDや特典DVD及び(2)制作秘話やスチール、人間関係図などを含む詳細なブックレットが付いている本BOX−SETを薦めたい。
当初、本作品は監督の構想では「全五部」、日活とのニギリでは「全四部」となっていたようである(ブックレット14〜15頁)。いずれにせよ、全三部を観終わっても、これだけの個性豊かな群像そして名優たちの演技(あるいは怪演)を通じ、脳裏に様々な登場人物の残像が浮かんでついぞ離れない。伍代由介(滝沢修)・喬介(芦田伸介)兄弟やその息女たち(浅丘ルリ子、吉永小百合、高橋悦史、北大路欣也)、標耕平(山本圭)、鴫田駒次郎(三国連太郎)、鴻珊子(岸田今日子)、高畠正典(高橋幸治)、服部達夫(加藤剛)、趙瑞芳(栗原小巻)、狩野温子(佐久間良子)などなど、彼らひとりびとりは一体どのような運命を辿ったのか。第四部そして第五部を観ることができない今となっては、ただただこれを頭の中で想像するしかないのが非常に残念である(寂しい思いがする)。
人間の條件 DVD-BOX
2000年以上も前、ギリシャの作家イスキュラスが言いました。
「戦争で最初に殺されるのは真実だ。」
みんなが「生まれてきてよかった」と思えるような世の中を来させるために、次世代に引き継ぎたい、観る価値のある作品です。
戦争と人間 第一部 運命の序曲 [DVD]
私は山本薩夫監督をこの映画で初めて知った。
三部作中の発端編であるが、私はこの第1作が一番面白いと思う。というの伍代家の当主やその弟の出番が多く、専ら大人たちが中心だからだ。これが第二部になると、息子や娘が恋愛したり、召集されたりと、やや比重が若い世代に傾き、散漫な感じが否めないからだ。新興財閥がいかに時流に乗って事業を拡大するかに、話が集中しているので、このシリーズの本質がよく出ていると思う。しかし、この三部作はかなりの力作。太平洋戦争まで行かなかったのは残念だが、最後のノモンハン事件は戦争末期を思い起こさせるほどのものを描いている。
演技者の中ではやはり滝沢修が凄い。一見紳士で温厚そうだが、その実は厳しい考え方の持ち主。優勝劣敗の考え方の持ち主だと思う。それは俊介や順子との親子の会話でも窺える。それだから成功したのであり、本人もそういう自負を持っている。そんなことを想像せてくれる演技は流石だと思う。
人間の條件〈上〉 (岩波現代文庫)
この本を読むと「正義」という言葉が軽く出せなくなります。 また、正義という言葉を多く使っている人が軽く見えてしまいます。
物語は戦争中の日本であり全体主義が強い時代です。 その中で主人公は「正義」を貫こうとします。人間的に良い事をしているはずですが、全体主義の時代の中「変質者」として扱われて行きます。自分の考えを持たずに全体主義という長いものに巻かれていれば、高収入、高い待遇、戦地に行かない特権を楽に手に入れる事が出来た主人公であるが、「正義」の心が勝ってしまいそのような待遇に甘んじることが出来ません。
その後、戦地に行くことになってしまい、最終的には「理想郷」だと思っていた所に行くことが出来ます。でも「理想郷」でも全体主義が力を利かせている世界だと言う事に落胆してしまいます。
本書は上中下の三部構成になっていますが、本に引き込まれてしまうので時間を忘れてしまうと思います。新作がつまらないと思っている人はこのような旧作を読んで見ることをオススメします。