PiCNiC [DVD]
岩井俊二さんの作品の中では、この作品とUndoが一番好きです。中学のときにはまって以来、それから10年ほど経った今でも、原点に立ち返りたいなあ、と思うときはこの作品を見ます。そこに醸し出されている雰囲気が、自分の肌にはすごく心地いいですね。
リアリティーを気にすれば、一つ一つのシーンや小道具も、台詞も、「え!?」と思えてしまう箇所がたくさんあるとは思います。しかし単純に、目の前を流れていく映像は、とても詩的で美しい。しっかりとしたストーリーが無いからこそ、その美しい、鮮やかな映像はかがやいて、観るものの心に染み入ります。難しいことは抜きにして、単純に綺麗で心地よいので、私は本当にこの作品が好きです。
作品中に出てくるキリスト教のイメージや、ヨーロッパ風のツタが全面にはっている壁のシーン、賛美歌や牧師なども、御伽噺のようなこの映画を際立たせるのに一役買っています。日本なんだけど、教会やヨーロッパっぽいものがあるところって、普通の空間とは違って、なんだか神聖で静かな感じがしませんか?ただの雰囲気的なものですけど、そういうモチーフがたくさん使われていることも好きです。
最後に、ココが走り抜ける堤防の下の青い海や、壁の緑やこうもり傘の黒など、本当に色彩が秀逸。そして、それらは輪郭がはっきりしておらずぼんやりとしていて、どこかあやうい感じがします。
それはまどろむ午後の白昼夢のようで、現実なのかそうではないのかはっきりとは分からないこの映画に、ぴったりの色彩だと思います。美しいものだけを入れるのではなく、たまに目を覆いたくなるようなグロが入っていることも、ただの綺麗な御伽噺では無くって私は大好きです。
Ciao!
2011年に突然活動中止を宣言してしまった現役最古の日本語ロックバンド
こんな音楽界の重大事件にも関わらず、大マスコミ様はアイドルや韓国人の方が大切らしく、あまり報じてくれませんでした
しかしながら、作品自体はどうだろう?
寧ろ報道が小規模でよかったのかも知れない
かなり聴く人を選ぶものの、実験的でありながら王道を行く、ムーンライダーズの集大成とも言える傑作である
もちろん、このCD自体が名盤には違いないが、実は真の形は我々聴き手によってしか再現できない
公式販売のアナログ盤収録の配信ラストシングル「Last Serenade」と組曲!チャオを加えて、ようやく彼らのラストメッセージが全て揃う
しかも、これらは可能ならばCD収録予定だったため、きっちり1枚に収まるのだ
だが、組曲のラストメッセージは意味深で、やはり本作自体が未完成≠ラストアルバム、或いはムーンライダーズ自体が未完結バンドであるとも採れる
果たして本当に進化して戻ってくれるのか?
米寿の日本語ロックにも期待してしまう
スピードマスター プレミアム・エディション [DVD]
大雑把演出で魅せる須賀大観監督と、スキ間が多い作品が多い柴田一成のコンビが作り上げた、一応金のかかってそうな作品だ。それぞれ博報堂とジェネオンの社員だから、もっと広告っぽい作りかと思っていたら、ちゃんとドラマ部分も成立していたので、そこは評価したい。メイキングで須賀監督いわく「中村俊介の役はストリート・オブ・ファイヤーのマイケル・パレ」だと言っていたが、確かにコートの着こなしはそっくりだ。どこの国だかわからない、という設定だが、みんな日本語喋ってるし、そのあたりは辛い。だから全体的にも厳しい出来なのだが(笑)、須賀組・柴田組の特徴は、ともに若手女優の抜擢が挙げられる。北乃きいは小松組の傑作「幸福の食卓」と同じ年の作品だが、撮影当時はまだ15歳。メイキングなどを観てもとにかく可愛い。オーディションで選ばれたのだろうが、やっぱり上手いね。本作もポスターの写真配置は真ん中だし、事実上の主役といってもよかった。北乃は「ポストマン」もそうだが、千葉がメインの作品が多いなあ(笑)。他、黒髪のモデル・蒲生麻由の金髪とかも注目である。車のシーンはああいう世界に詳しくないのだが、全般に迫力不足だった。特典ディスクは結構なボリュームがあり、ある意味本編より面白い(笑)。星は2.5で四捨五入の3つです。
ヘイト船長とラヴ航海士~鈴木慶一 Produced by 曽我部恵一~
鈴木慶一ファンにとっては、待ちに待ったソロアルバム。はちみつぱい時代のセルフカバーも含めて、非常に充実した作り。
その上、このレコードは、オーディオファイル的にも非常に面白いモノなのです。このメディアには、SACD Multi, SACD 2ch, CDの3つの録音が入っています。
同じ2ch同士でもCDとSACD 2CHは音作りを変えてあり、メディアの特性を生かしたものになっています。SACD Multi Channel録音は、リアチャンネルを最大限に活かした録音となっていて、左右にそれぞれの音が定位するなど、ちょっとびっくりするような音楽の作りこみがされています。
こういうレコードがあると、リアスピーカーにもよいものが欲しくなります。マルチチャンネル再生環境の構築にも非常に役立つレコードです。
caméra-stylo
現在22歳の佐藤優介と佐藤望によるデュオ「カメラ=万年筆」による新作が素晴らしい仕上がりだ。
彼らは公式HPを持っていない模様で、10年から活動・自主制作盤を2種発表済・J-WAVE Radio Sakamoto(坂本龍一の
番組) オーディションでノミネート経験あり、これ以上のことは掴めなかった。最近音楽家個人のプロフィールを押し出さず
匿名性をもちながら活動する若手が増えている気がする。
仏映画監督アストリュックの映画理論をユニット名とする等かなり知的さを漂わせる人達だが、実際出てきた音楽がユニ
ット名負けしない前衛と遊び心に溢れる新感覚ポップスであり、お洒落な音楽に敏感な方は嵌る確率が高いと思う。
彼らの音は雑多な要素から成るジャンル分け不能なもの。ピアノ・管弦楽器とったクラシカルな音色を根底に、ドラム・ギ
ターといったバンドサウンド、電子音・効果音の装飾を重ねた多層的な創りは、長く経験を積み重ねた音楽職人の如くこな
れている。それらの音をすっきり配置する高度な編集感覚は、否応なく渋谷系職人達の影響を感じさせる。仏語表現を好
んだり、外国映画の台詞らしき音源を背後に流す手法等まさにPizzicato Fiveだろう。
面白いのはそこに20代の彼らが通ってきたサブカルチャーの色が滲み出ていることだ。女性ボーカル達の何処かアニメ
声風情の歌と緻密な音の組合せが放つ奇妙な感覚は中々得難い。予定調和に嵌らない風変わりな曲創りも楽しい。
全9曲で30分弱。特に固定ボーカルは居ない模様で曲毎に複数の女性歌手が入れ替わる。加え野宮真貴と鈴木慶一が
ゲスト・ボーカルとして1曲づつ参加。サウンド・スタイルは一つに落ち着かず曲中でさえ自由に形を変える。
フレーズ毎に劇的に姿を変える壮大なオーケストラ風バンドサウンドに混じり聴こえる「進級」「就職」といった現実的な単
語を含む呪文の様な詞世界がシュールな「School」、管楽器と女性ボーカルの柔らかい音色に包まれ可愛らしい物語を
紡ぎ出す「グッバイ・イースター」辺りが特に気に入った。
デザインワークの秀逸さも指摘したい。LPの様に袋から取り出す形で出て来た歌詞カード群には楽曲をイメージしたと思
われる気鋭イラストレーター達の素敵なイラストが。これらを含め確実に新世代クリエーター達の産物であると感じさせる。
今年に入ってからポップス新作の決定打に出会えなかったがこれは頭を殴られる程の衝撃を覚えた、強くお薦めしたい。