神州纐纈城 (河出文庫)
物語は土屋庄三郎が纐纈布なるものを
手にすることから始まるのですが、
そこから一気に物語は怒涛の如く一直線に突っ走ります。
そのスピード感たるや、一気に冥王星まで
(最近第10番目の惑星が発見されたらしいが)
6秒フラットで疾駆するかのような心持ちであります。
そのあまりのスピードのためか作者自身、
途中で筆を置いており、
とても気になるところで話が終わっております。
起承転結を小説を書く上での規範とするならば
完全に破綻を来たしていると言っても過言ではないでしょう。
しか~し、この物語は陳腐で俗物的な描写はなく、
そこはかとなく様々な観念論が見事に構築されておるのです。
半村良はこの作品に影響を受け妖星伝を執筆し、
永井豪はバイオレンス・ジャックを描きました。
伝奇ノ匣〈1〉―国枝史郎ベスト・セレクション (学研M文庫)
昭和初期に活躍した国枝史郎の魅力といえば、ほとばしるイマジネーションを基にした雄大なストーリーとケレン味溢れる設定ですが、その一方で、かっちりと纏め上げた短編の書き手でもあります。この傑作選は代表長編と佳作とされる短編数編を収録し、国枝史郎の入門篇としては、なかなか良い仕上がりになっています。国枝を読み込んだ人には多少の中途半端さを感じさせますが、ロマンの香り濃厚な幻の処女戯曲集の復刻を見逃す手はありません。文庫としてはやや高めの価格も、本のボリュームを見れば納得でしょう。すべての伝奇(時代)小説ファンに勧めたい一冊といえます。