妖魔の哄笑 (春陽文庫―探偵小説傑作選)
もともと昭和6〜7年に『大阪時事新報』に連載された長編推理小説である。
列車のなかでの惨殺事件、4本指の男、女性の屍体を解体するグロテスク趣味、複雑な入れ替わりトリックと読者サービスにあふれた物語だ。舞台も列車内から東京、鎌倉、大阪と次々と展開していき、トラベルミステリーのようでもある。
真相はきわめて複雑。しかし、よくできており、いまでも読む価値のあるトリックと思う。
ただ、主人公のへまや秘密主義、警察側の不手際が多く、読んでいていらいらさせられる箇所が多かったのも事実。最後の謎解きもあまりに詰め込みすぎ。
緑色の犯罪(探偵クラブ)
大下宇陀児もそうだが、とにかくかなりの作品数である。戦後1度だけ全集が刊行されているが漏れているものが多すぎる。この全集、近年復刻されているものの、いわゆる図書館本で価格高すぎの上、文字も読み難いとくる。甲賀三郎のシリーズ・キャラには獅子内俊次・木村清・葛城春雄・手塚龍太・土井江南等があり、それぞれがどの作品に登場しているのか一度完全に整理しないとよくわからない程だ。
乱歩とは逆に「質より量」的に見られる事も多く、探偵小説好きには魅力的なものものしいタイトルの割にはショボい作品もあるが、本書はその中から良いものを選りすぐっている。
■ニッケルの文鎮
■悪戯
■惣太の経験
■原稿料の袋
■ニウルンベルグの名画
■緑色の犯罪
■妖光殺人事件
■発生フィルム
■誰が裁いたか
■羅馬の酒器
■開いていた窓
現行本では論創社『甲賀三郎探偵小説選』、創元推理文庫『黒岩涙香・小酒井不木・甲賀三郎集』が入手し易い。春陽堂の初刊本復刻『琥珀のパイプ』『恐ろしき凝視』も探せば見つかる筈。春陽文庫『妖魔の哄笑』はつまらないのでお勧めしない。
長編の代表作『姿なき怪盗』ぐらいは文庫で流通していてもいいのではないだろうか。