悼む人〈上〉 (文春文庫)
三人の主体(記者、母親、ある女性)が主人公の「悼む人」をそれぞれの視点で見つめ続けます。
この三人が、自分自身の境遇や状態の変化と連動しながら、主人公とのダイアログを通して、主人公に対する見方や眼差しを少しずつ変えながら、いくつかの問いかけを発信し続けます。
これらの問いかけは読者によって異なるものかもしれません。私への問いかけは
'1「誰に愛され、誰を愛し、誰に感謝されたか」という問いかけの持つ意味
'2 主人公によってなぜその悼みが死者に対してなされ続けているか
'3 主人公の「悼み」は、誰に何を与えてくれるのか。無益な行為ではないのか そして
'4「彼は誰か」
これは私の直感なのですが、読者がいだくであろう様々な問いかけに対して、この小説には丁寧な解答が用意されているはずです。
物語のテーマの重みとは異なり、読み進む作業は楽しい作業です。ただ、暗い気持ちの時に読まない方がいいと思います。私は4つの問いかけに心をもみくちゃにされました。それから涙脆い方は電車とかカフェで読まないことをお勧めします。
上巻は比較的淡々と読めると思いますが、第五章にはご注意下さい。一人で時間を作って、しっかり読んで煩悶しましょう♪
永遠の仔〈下〉
現在の世の中の問題が、ギュウッと詰まったような本。世の中のニュースを騒がしているのは、多かれ少なかれ、この本に書かれているような問題を含んでいるのかもしれない。また、自分が世の中を生きていくうえでも参考になる部分は多く含まれているのではないか。
自然の描写にもとても感動した。人が自然と一体になるというか、とても清々しいものを感じられた。実際、登場人物の立場になったときは、清々しいなんて言ってられないのかもしれないが、ある意味うらやましかった。けど、読者にそういう風に思わせられる環境だから、その自然と一体になる場面での出来事が成立したのかもしれない。
嘘は生きていく上での知恵でもある。その知恵も使い方を誤れば、傷を生む。そんなのは童話レベルかもしれないが、意外と理解できているようでできていないのではないか。そんなことを上手く、しかも複雑に、複雑でありながら分かりやすく、語られているようでもある。
上下巻合わせて、とても長い物語だが全く飽きることなく読めるのは、なぜだろう。始め本を開いた時、読むのを臆するかもしれない。実際、arloも本の厚さ、字の細かさ(多さ)にはためらった。だが、いざ読んでみると集中して読むことができるので、あまり時間もかからなかったように思う。そんなことより、この本を読むことによって体感できることの方がよっぽど価値のあることのように思う。読み終わったあと、自分自身が強く生きていく意志をしっかり持つことができたこと。また、幼少年への虐待、少年犯罪が減ることを強く願ってやまない。
悼む人〈下〉 (文春文庫)
「悼む人」は何を伝えようとしているのか。まず、彼はどんな身分の人も分け隔てなく「悼む」。そこに、キリスト教と共通する思想を感じる。死は誰のもとにも共通して訪れるということ。また、キリストは悪人だろうが貧しかろうが自分を信じる者を差別せずに救った。作者が伝えたいことはそのあたりにあるのではないだろうか。彼の「悼み」により、どんな死者も一種のかけがえのない存在として彼の胸に刻まれる。と同時に、死者はその生の意味を肯定され、この世で意味を持っていた存在として昇華されるのではなかろうか。
私たちは普段、自分たちの中のものさし(善悪の基準)で物事を判断する。死に対してもそうである。ある死者は非難され、別の死者はほめたたえられる。それがどれだけ傲慢な行為なのか、「悼む人」はその行動で示す。前述したように、そこには差別がない。キリスト教との一致も、書いたとおりである。読み進めるうちに、死者を本当の意味で裁けるのは、神だけなのではないか…そんな思いが浮かんでくる。
彼の「悼み」は、最初は単なる自己満足としか思えない。確かにそれはそうなのだが、彼の行動は確実に関わる人を変えていく。あるフリーライターは視点を変えてものを書くようになり、彼の同行者の女性も自分の気持ちの変化に気がつく。彼の「悼み」が、周りの人に死を意識させ、それについて深く考えさせるきっかけになるのなら、そのふるまいにもプラスの意味を見出せる。
世の中にいろいろな宗教があるように、「悼み」にも様々な形があるだろう。この本に示されているのは、その一つのあり方にすぎない。しかし、普通の人が避けがちな「死」を真正面から見すえ、読後に死について考えるヒントを与えてくれる小説として、この本は見事にその役目を果たしている。
永遠の仔 DVD-BOX
原作を読んでとても感動したので是非映像化されたものを観てみたいと思って観ました。原作のシーンを再現するために制作者がものすごく凝って作られたのだなとかなり感心しました。ただ個人的な印象ですが、子役の優希が原作のイメージとかなり違うのに違和感を感じましたし(演技力は素晴らしかった)、大人時代のモール役は渡部篤郎はやや小柄でそれも少し違和感がありました(あくまでも個人的感想)。