滝田ゆう落語劇場 (ちくま文庫)
まんがで読むとどうなるのかなと思っていましたが、さすが(!)、とてもおもしろいです。で、落語っていうのはその噺を知っていてもまた聴きたくなるものですが、しばらくたってまたぱらぱらと読んでいる。ざっくりとした、といって細やかな計算とか調子はもちろん整っていながらなので更にということなんだと思いますが、軽妙な落語の味わいがきちんと出されていて、読み返しても笑うところではしっかり笑ってしまいます。
寺島町奇譚 (ちくま文庫)
著者は昭和7年生まれ。戦前から戦後にかけて過ごした、東京は隅田川の近くの町での少年時代が、懐かしく活き活きと描かれている。巻末の解説で作家・吉行淳之介が「暖かくて人間味があり、知識人向きのものとして親しんできた」と書いている。この漫画の特徴の一つは「吹き出しに小さな絵が描いてあることで」と解説は続く。私も、この「吹き出し」には随分悩まされた。この漫画の主人公はキヨシで、著者の少年時代を思わせる。一家は飲み屋をやっている。キヨシは時々、母をカアチャンと呼ばず「クソババアッ」と呼ぶ。勿論、母に聞こえないようにだが。猫も土足で上がると「足を洗ってはいってこいっ」と怒鳴られる。キヨシが友達と遊んでいると、母は「遊んでばかりいないで、べんきょうしなさい、べんきょう」と怒鳴る。毎朝、朝寝坊のキヨシは、父・母・祖母・姉に「オハヨウゴザイマス」と言ってから朝食を食べる。キヨシも姉も客も、よく戦前の歌を口ずさんでいた。私のような、著者と同年生まれの老人には、それが哀しく懐かしい。こういう漫画を傑作というのだろうか。そうに違いない。