竹光侍 8 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)
ストーリーは複雑でなくとも、独特の世界観を持ち行間(コマ間?)を読む(味わう)ことを読者に求めている漫画は、単行本の発売間隔が長いような気がする。そういった漫画の最新刊が発売されたときには、必ず第1巻から再度読み直してから最新刊を読むことにしている。最新刊をより深く味わえると思っているからだ。勿論、この最終巻も同じようにした。
私はもう40歳を超えたのだが、ここ数年の好きな漫画は前述のような作品か、中3の息子が買ってくる勢いで読める漫画という両極端な傾向がある。なぜか、いわゆる青年誌に連載されているマンガは読む気にもならない。息子も中学生になり、私自身が買ってくる(かつて買っていた)漫画を読んでいるのだが、「なにがいいのか全然わからない」といっているのが、松本大洋の作品だ。
*ただ、「ピンポン」だけはおもしろいといっている…。
私の最も好きな漫画家は谷口ジローなのだが、初期も含めほとんどの谷口作品を読んだ息子はまぁまぁおもしろいという。二人の漫画家には「絵だけでも読者にすべての空気を伝えることができる」という共通項がある。
現在、谷口ジローが描いている漫画は本当に地味だ。間違いないなく読者層の年齢は松本大洋よりも上だ。中3の息子はそういった漫画家の作品よりも松本大洋の作品がおもしろくないと言う。それだけ松本大洋作品が持つ空気は個性的だという証のような気がする。
そんな、彼が描いた時代劇。終わってみれば特異なストーリーでもない。ありふれているといってもいいくらいだ。しかし、だからこそ、彼の絵の魅力、登場人物の魅力、空気間が生かされるのだと思う。
彼はこの作品で、セリフを極力排除する(もともとセリフは少ないが、そんな彼の作品でもっとも少ないのではないか)ことによって、絵(漫画)による表現の限界に挑戦していたのではなかろうか。本当のところはわからないが、私にはそのように伝わってきた。
竹光侍 1 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)
松本大洋の作品をそんなに沢山読んだことがあるわけではないけれども、彼のディテールに
対する愛情、というか、存在そのものに対する愛情が画面全体に散りばめられていて、心地よ
く歪んだ天地、世界、平面と立体とを自在に行ったり来たりする世界が、最高だ。自由だ。
んで、主役の侍さんの好奇心、観察力、異様なほどの運動神経、が、優しく、緩くもある、静かな世界に、程よい量で切れ味よく狂気を持ち込んでて、良い
竹光侍 2 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)
話の内容は時代劇としての王道を丁寧に突き進んで面白い。
そこへ独特の絵柄とコマの「間」の妙が加わり、静かだが不思議な迫力をもって迫ってくる。
この二巻の話の前半は辻斬り始末記であるが、この時見せる主人公の人ならざる物のごとき迫力は圧巻である。
一方で人情話においても実にしんみりとした味わいを見せ、日常を描いたほのぼのとした話には何とも言えない暖かみがある。そしてそういった話を挟みながら、話は主人公を狙う刺客へと急速に展開していく。
実に多方面にわたって深い魅力を備えた、良い作品。
ついでながら、辻斬り始末記の様子を報じた瓦版の挿絵や変体仮名、文体などもいかにも江戸風に作られていて、細部に至るまで非常に丁寧に作っている事を感じさせた。