Hail Mary [VHS] [Import]
ゴダール、80年代。といえば、解りにくい作品といったイメージが強いのですが、これはわかりやすい。しかも情緒いっぱいの映画。聖母マリアが体験する受胎告知の現代版といったところですが、ジョゼフがしがないタクシー運転手、マリアがバスケットボールの選手、そして大天使ガブリエルが浮浪者風のいでたちで登場するなど、まったくもってゴダール風なのが嬉しい。
圧巻は主人公マリアが覚えもないのに妊娠し、ジョゼフの理解を得ようとしながら、おなかの子供を意識することを通して、人間存在の不可解さ、生命の奥深さを内観するあたり。このあたりのゴダール監督の空や月明かり、飛行機などのイメージを駆使した演出が冴え渡ります。時を追うにつれたふくよかになっていくマリアのおなかはエロティックさを超越して神々しい美しさまで感じてしまいます。
無論、マリアがなぜ妊娠してしまったかについての現代的かつ科学的な立証は成されませんが、そのあたりが逆に現代社会の限界、科学文明の無力さをさりげなく観る者に感じさせる、これは聖なることをどのように人間としてとらえたらよいのかという問題を我々に投げかける逸品。