アルティメット・ファクター 軌道上のキリングゾーン (角川スニーカー文庫)
骨太で荒削り、硬質で端正な文体。
個人的に角川スニーカー文庫の中では高い完成度を誇る隠れた佳作。
資源の枯渇した惑星テラ・インコグニタには砂塵吹き荒び超生物と悪漢どもが跋扈する
西部劇の世界が広がっていた。
ミリタリー・サービスを営むウィッシング・ウェル社の面々は仕事帰りの列車で敵の襲撃を受ける。
トレインジャックを敢行したのは惑星開拓の為に遺伝子を強化された新人類アルティメット。
人類に迫害され辛酸を嘗め尽くした彼らが遂に反旗を翻すー!
まずアクションシーンが圧巻。
ラノベらしくない濃密に書き込まれた文体は時に加速し、弾丸ばらまき光刃迸り超人離れした心技体が炸裂する怒涛の活劇は迫力満点痛快。
キャラクターも文句ないが主人公側より敵のほうが魅力的なのがこの作品の特徴。
主人公側に比肩する密度で敵の心情や人間関係が書き込まれているために、正義の味方としてはやや類型的に思える主人公側より、迫害を受け続けてねじくれてしまったものの仲間には心を許しくだらない軽口を叩く敵側に感情移入してしまう。
中でもマルコとシバガミ少佐がいい。
かつてリボーと同じチームに所属した後輩でありながら、人間に裏切られ差別を受け続けたことで性根がねじくれてしまった彼が無邪気な微笑みの裏に覗かせる狂気に痺れる。
純粋にひねくれてるマルコを補佐する部下も「女子供と犬は殺さねえ!」と豪語する熱血漢や世話好きなふとっちょオカマなどバラエティにとんでいる。
関西弁ヤクザにしか見えないシバガミ少佐とマルコの師弟関係に惹きこまれる。
もっと長く続いて欲しかったと心から思う。