ジパング島発見記 (集英社文庫)
著者の作品を読むのは、「利久にたずねよ」に続いて2冊目。
「利久に〜」の記憶が残っているうちに読むと、がっかりしそう。
連作短編のかたちなのだが、無理に取り上げる人物を西洋人に固定しない方が、まだしも物語世界が膨らんだんじゃないかと思う。
なんだか「こういう切り口で書いたら面白いんじゃないか?」という思い付きで書き始めたものの、思った程ネタがなく尻すぼみ…という印象を受ける。
(まさかネタが揃わないのに書き始めたなんて事は、ないんでしょうけど。)
題材に興味を持って読んだものの、新しい発見も、物語の楽しさも見い出せなかった。
火天の城 (文春文庫)
安土城が空前絶後の城であった事は周知の事実であり、それをゼロから作るという途方もない事業に挑む男達の話だというだけで興味がそそられる。
それだけではない、主人公が城大工ということで、築城に関わる多くの人達、組織、エピソードが盛り込める。着眼点の勝利といえる。
関わるのは施工主の武将にはじまり石工・木挽・陶工・人足、賄いに至るまで。ネタの裾野が広いだけではなく、スケールがでかい。巨石・巨木・大組織とスケールの大きい素材を好きなだけ盛り込める。
主人公の岡部親子の葛藤を物語のもう一つの柱にしながら、凝縮された素材が一気に描き上げられるのだが、築城に挑む岡部親子の姿は、歴史という巨大な機械を、様々な角度から、様々の情報で、重層的に描く事に挑んでいる作者の姿と重なって見えてくる。
とりわけ、全編にびっしり盛り込まれた情報の量がこの小説の醍醐味といえる。さりげなく専門用語を用いるなど、細部に至るまで工法やら挿話やらうんちくが贅沢に続く。力技でありながらさらっと盛りつけられており嫌味がない。背景にある膨大な情報のほんの一部ずつ必要量だけを自然に使っているのだろう。
銀の島
なんの知識がなくても楽しめる筆力が素晴らしいです。
どこまでほんとで、どこまで嘘なのかまったくわかりませんでした。
ページをめくる手がとまらなくて、ほぼ二晩徹夜・・・
こういうのにありがちな、必要ないエッチなシーンもなく、安心して楽しめました。
装丁も素敵!
命もいらず名もいらず_(上)幕末篇
山岡鉄舟に関しては、剣の達人程度のあやふな知識しか持っていなかったが、本書を読んで凄まじい男であることがわかった。
この男のすごいのは常に本気だということだ。生涯をかけて剣、書、禅の道を追求するが各々の道の究め方が半端ではない。人の10倍・100倍努力すると思い定めてそれを実行する。つねに全身全霊でものごとにあたるというのがこの男の信条。全身全霊と口に出すのは簡単だが、鉄舟はそれを生涯において実際に日常生活レベルで貫いたことがすごい。
幕臣として徳川慶喜に仕えて江戸幕府の平穏な幕引きに奔走し、明治に入ってからは天皇の侍従まで務めることになるが、自分の身を捨てて真正面から物事に取り組む姿勢が周囲の信頼を得て、物事を成し遂げることにつながったことがよくわかる。
なお、タイトルの「命もいらず名もいらず」というのは、幕末に西郷隆盛と江戸総攻撃を中止するよう談判した際に、西郷が鉄舟について「命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は、始末に困りもす。そういう始末に困る人物でなければ、艱難を共にして、国家の大業は為せぬということでございます」と語った言葉から来ている。
命もいらず名もいらず_(下)明治篇
剣と禅を極めた割には、居候を何人も養ったり、自分で大酒を飲んだり、はたまた借金の保証人になって苦労したりするお茶目な一面もある山岡鉄舟ですが、常に他人の為に自らを投げ打ちます。
身の危険を顧みず、主君・慶喜の意向を大総督府に伝え、江戸を戦火から守り、駿河に移住した旧幕臣の為に茶畑の開墾に尽力したり、西郷や勝の依頼で侍従となり、明治天皇の教育係として、一国の君主だからこそ、立派な君主になってもらいたいからこそ、臣下がお諌めすべきと、悪ふざけの過ぎる天皇を投げ飛ばして諌めたりもします。
そこから見えるのは、国家の為に他人の為に、常に自分が前に進もうとする姿勢です。失敗や敗北は素直に認める。そして、辛い時は目をつぶってもいいから、無私の精神で前に進もうとする山岡鉄舟の姿は、常に自分が大事で何でも他人や周囲のせいにしたがる現代人への警鐘だと思います。