神の裁きと訣別するため (河出文庫 (ア5-1))
1896年に生まれて1948年に死んだアントナン・アルトーのラジオ放送のためのドラマ「神の裁きと訣別するため」と、同時に録音されるはずであったものの録音されなかった「残酷劇」、さらに「ゴッホは狂人ではなかった」ことを自らの9年間の精神病院での体験をもとにつづった(というより謳い上げた)「ヴァン・ゴッホ」が入っています。例によって、ドゥルーズの邦訳などで知られる宇野邦一さん、鈴木創士さんによる翻訳なのですが、前半の「神の裁き」と「残酷劇」は読みやすいのですが、「ヴァン・ゴッホ」は原文がそうなのか訳のせいなのか、意味不明、主語はなんなのか、どこに文章がかかっているのかもわからない有様です。
まあ、「神の裁き」を読みたかったので満足なのですが。
ドゥルーズ=ガタリの「器官なき身体」の言いだしっぺであろう、アルトーの言葉を読みたかったわけです。
「人間に器官なき身体を作ってやるなら、
人間をそのあらゆる自働性から解放して真の自由にもどしてやることになるだろう。
そのとき人間は再び裏返しになって踊ることを覚えるだろう。
まるで舞踏会の熱狂のようなもので
この浦とは人間の真の表となるだろう。」
なんともまあ、激しい文章です。
アルトーを宇野さんはその解説で「狂人」ではなかったと擁護していますが、「狂人」とは何かということを考えると、これはこれで立派な「狂人」でいいではないですか?
常識にまったくとらわれず新たな人間の存在の地平を指し示しながら踊り笑う狂人としてはいけないのでしょうかねえ?!
中島らも烈伝
とりとめなく時間がレイドバックしました。
そこには、時代の季節が砕かれ散りばめられた朗読のようです。
ロックアウト・ランボー・オルグ・天井桟敷・ウェザーリポート・
フェリーニ・
らもさんの古い友人達からのレクイエム。
表紙もそうですが、若いころの二人のスナップ写真もとてもいい感じです。
すべての方達から愛されていたんですね。
花のノートルダム (河出文庫)
ジュネの精神、美学の全てが結集した作品。それ故に、男娼の醜さ、美しさの全てを描いている灰汁の強い傑作。この本を読めば、ジュネの生い立ちの全てが覗けるような心地となるが、とても訳が読みにくい。
個人的にブレストの乱暴者、泥棒日記の方が小説の形を成し、特にブレストは彼の最高傑作であり、渋沢龍彦の名訳が素晴らしい。ただジュネを知りたい、彼の美学に触れたい、と思うならば花のノ-トルダムは必読だと思う。