For Everest ちょっと世界のてっぺんまで
彼が、写真家、冒険家として「この地球を受け継ぐ者へ」を上梓してから10年が経ち、
あの頃の若さという原石な輝きが、時の経過とともに研磨されていったものが
本書に繋がったのだろう。
誰にでも初めての山が旅があるように、
2度目に訪れるべき山や出会いもある。
経験した分だけより客観的に捉えることができるし、
それが本書にも現れている。
出会った人々の再会、訪れたかの地への憧憬、
シェルパの成長と栄光と堕落を時の変化に合わせて綴っている。
また、2011.3.11の東日本大震災の当日に彼が過ごした出来事や
その後、すぐに被災地に向かった現地での状況なども書かれているので、
ただの山日記では終わらない内容でもある。
若干、玄人向けの内容にもなっているけれど、
丘の上でネットワークを探す姿など、
あの頃と変わらない空気感は随所に残っているので、
石川ファンはもちろん、山好き、旅好きにも楽しめる。
なによりエベレストの現実が描かれているので、
遠い存在なエベレストが、実はとても近く、そして脆いものだと知るだろう。
そんな世界のてっぺんにちょっと立ち寄ってみませんか?
演劇集団キャラメルボックス きみがいた時間 ぼくのいく時間 2008年版 [DVD]
演劇集団キャラメルボックス、感動のタイムトラベルものです。
この作品は、シリーズ4作目にあたりますが、前3作はまったく知らなかったわたしでも、ぜんぜん問題なく楽しめました。
キャラメルボックスに、いまも所属している上川隆也が、久々にキャラメルの舞台で主演しています。
さすがに存在感が違いますが、他の作品で見るよりもずっと若々しく、いかにも舞台を楽しんで演じています。
原作は、「黄泉がえり」「この胸いっぱいの愛を」の梶尾真治。なるほど、なるほど。
タイムマシン「クロノス・スパイラル」という実験中のタイムマシンに乗り、愛する人を救うべく、1970年に旅立つ。
そう、機械の制限で39年前にしかトラベルできないため、彼女に出会うためには、39年も待たなくてはいけない。
本作のポイントはここにあって、テーマとしてはやりつくされた感のあるタイムトラベルものであっても、
話の中心は、愛する人を長年にわたって見守る想いにあり、切なさに涙します。
さすが、キャラメルだけあって期待通りの完成度、非常に楽しめました。
疾走感のある音楽、ダンスも健在です。
鮫島有美子「ディスカヴァー2000」(7) 白い花の咲く頃
鮫島有美子さんの歌い方を批評するだけの見識はありません。しかし、彼女の歌を聴いていると、美しい日本語の発音がとても耳に残ります。古き良き時代、現代語である日本語が、鮫島有美子さんの歌になると、格調が備わります。彼女の歌そのものも楽しめますが、美しい日本語を忘れないためにも、はきはきした歯切れのよい日本語の歌をみなさん鑑賞してみませんか?
渋谷BLACK2(2)コギャルは眠らない [DVD]
これはアツい。一見、パッケージに顔がないので、怪しいが見て損はない。
ギャル、ギャル、ギャルとワンパターンかと思わせつ、妊○ギャルとかディープな世界あり。
ハワイあり、風ギャルの部屋あり。。。見てみて。
桜の森の満開の下・白痴 他十二篇 (岩波文庫)
この作品集には十四篇の短編が収められており、人間の魂を見詰める坂口安吾の姿勢の遍歴と、その小説への凝縮を辿ることができる。『吹雪物語』の執筆(昭和11年から昭和13年)或いは「文学のふるさと」の発表(昭和16年)を一つの境目と考えると、本作品集を興味深く読めるかもしれない。
坂口安吾の文学のモチーフは人間の魂の全的肯定にあり、それは人間生来の孤独、哀切(それを彼は「ふるさと」と呼ぶ)を冷徹に凝視することで為される。初期の作品に於いては、「ふるさと」に対する彼の態度は虚無的で感傷的だった。その感傷の故に数々の美しい詩的な作品(本作品集では「傲慢な目」を特に挙げられるだろう)が生まれたが、一方では視線には冷徹が不足し、「ふるさと」に対する態度には厳格が稀薄だった。そのために「ふるさと」には現実感が欠け、憧憬ばかりが顕著になっている。しかし徐々に(本作品集では昭和21年の「白痴」から)、彼は「ふるさと」に急速に接近して行く。感傷的なものから現実的なものへ、憧憬から希求へ、受動から能動へ。この姿勢の変化とその徹底によって、彼は人間の魂の深層を照射し、人間の魂の全的肯定そして人間の生命力への全的信頼に達したのだ。