ザ・エンピリアン
待ちに待った人もそこそこ多いであろう、ジョン・フルシアンテの新作。
今回はバンドサウンドの歌もの作品のようで、作品の立ち方としては「シャドウ・コライド〜」もしくは「ウィル・トゥ・デス」に近いのではないかと。
既に公開されている曲を聴く限りでは、そちらよりも閉所感が強く、感触としては「カーテンズ」などにも近いです。ギターをあまり使わずに声で引っ張っていく曲もいくつかあり、それがなかなかの仕上がり。僕はギターワーク以上にジョンは声にも唯一無二なものがあると思っているので、こういうタイプの曲はもっと欲しいぐらいです。
フルシアンテのソロとしては割合想定内な音楽性ではありますが、ファンの期待を裏切るようなものでは全くなく、私的には愛聴盤がまた一つ増えそうです。
ゲストはジョッシュ、マイケル・バルザリー(フリー)に加えてジョニー・マーなど。ティム・バックリィのカバーも収録。
歌詞に物語性があるらしく、やはり国内盤推奨でしょうか。この人は素晴らしい詞を書きますし。
・・・・レッチリをそろそろお開きにしてこっちに専念してほしい、というのはレッチリファンに怒られちゃいますかね(笑)
でも、もっとこの人の作品聴きたいんだよなぁ。
追記:全曲聴けました。レッチリや「シャドウ・コライド」のようなキツいHi-Fi感はなく、あくまで体裁はUSインディーな風ですが、つくり込みが凄い。「スフィア」で磨いたであろう電子サウンドも効果的で、かなりの良作です。ソロ作すべてと比べても、1、2番手のアルバムじゃないでしょうか。
ちなみにボーナストラックがイイ曲なので、日本盤推奨かと。(でもアルバム全体で聴くと、物語が終わった後に曲が始まる感じで、ややそぐわないかも。)
Tim Buckley
ティム・バックリィと言えば、サイケ・アシッド・フォーク歌手として有名ですが、本作では彼の歌手としての無垢な魅力があふれた名盤です。
メンバーは、
リー・アンダーウッド:ギター
ティム・バックリィ:ギター、ヴォーカル
ジェイムス・フィルダー:ベース
ビリー・マンディ:ドラム&パーカッション、後マザーズ
ヴァン・ダイク・パークス:ハープシコード、ピアノ、チェレステ
豊かな声量で軽やかに、ストレートに、しっとり歌う、彼の表現者としての非凡な才能は、もうこの1枚目に発揮されています。
2枚目の文学性や3枚目のアシッド、フリーキーなジャズ色はまったくない、ストリングスをバックにした、内省的なフォークですが、彼の神秘的な歌の魔力には十分ハマれます。
もしかしたら、彼独特の伸びやかで、美しい歌を聴くにはこの作品で十分なのかもしれません。
Happy Sad
大きいジャケットが欲しくて、CDからAnalog盤を買い足しました。
最初に聴いた Tim Buckleyのアルバムは「Goodbye & Hello」なのですが、オーバープロデュース気味で
好きになれませんでした。そんな時店頭でこのジャケットに惹かれて購入。これが大当たり。ほどんど一発取りのような本作には一発で魅入られてしまいました。Timの間合いの入れ方とか十二弦ギターを使っている所とかにフレッド・ニールの影響を感じます。
問題のAnalog盤はジャケットが薄くてトホホな感じですが。レコード盤は重量盤のようで得したような気がしました。製造はrhino entertainmentの様です。まあ、私は大きなジャケットを見ながら聴ければそれで満足なのですが・・・。
グレース
彼の死のニュースを聴いたとき、驚き、悲しみと共に「やっぱりか」という思いがありました。彼の音楽を聴いた方はわかると思いますが、これほどまでに「命を削って」歌っているという感じが伝わってくるミュージシャンを、私は他に知りません。
激しさに、そして儚げな美しさに胸が締め付けられます。神がかっていますし、それ故に神に召されたのだと思います。神に近づきすぎて、そのまま気に入られて・・・というようなことを無宗教の私でも考えてしまいます。
彼が命をかけて残してくれた一枚を私はいつまでも大事に聴かせてもらいたいと思います。
Starsailor
大抵のベスト盤に収録されている名曲「SONG TO THE SIREN」に含んでいることから、つい買ってしまいそうになりますが、これは彼の作品中最もアバンギャルドな作品で、聴き手を選びます。やや聴きにくい作品だと思います。
この作品は、最高傑作とも、最もわけが分からない作品とも二極分化した評価を今後も受け続けることでしょう。まあ、私自身は、この「分裂病的綱渡り」ような、むき出しの、ピリピリしたサウンドがとても好きですが・・・
ここでの彼の鍛え抜かれたヴォーカル・パフォーマンスの凄まじさは、当時の「サイケデリック」や「フリージャズ」をも遥かに超えてしまっています。元マザーズ・オブ・インベンションのガードナー兄弟(管楽器)の参加が非常に象徴的で、彼の他のアルバムとは一線を画す実験的な内容になっています。
私には、ティム・バックリーはこの作品のパフォーマンスを通じて、自らのアイデンティテーたる「歌」の解体的再生を行っているように見えます。その意味では、この作品こそ、彼の最高到達地点にある作品と個人的には、思っています。
てなわけで、初期の頃の詩的でファンタジックな歌や、ダウナーなアシッド色の強い雰囲気が好きなファンは聴かない方がいいかも・・・。ジャケの彼の引きつったような「笑顔」が何か意味深です。
灰野敬二、キャプテン・ビーフハート、パティ・ウォーターズ、三上寛を聴き慣れている方は、きっと気に入るはずです。