ことり
「皆が忘れた」小鳥の言葉を話す7歳上の兄と、後に「小鳥の小父さん」と呼ばれる弟の生涯の物語。何より小鳥を愛する兄が52歳で亡くなると、弟はゲストハウス管理人のかたわら、幼稚園の鳥小屋掃除をボランティアでするようになり……。
小川さんの小説には欠かせない何かに強く執着する兄と、その兄を献身的に見守る弟、荒れ果てた自宅の庭に来る野鳥との組み合わせが、ひそやかな幸福感を与えてくれる。旅行へは行かない同じ繰り返しの日々でも、流れる時間は穏やかで安らかだ。
ところが兄亡き後、淡い恋に破れ、虫箱を持った老人と出会った頃から、弟の静かな生活は少しずつ狂い出す。タイトルが「小鳥」でない意味には驚愕させられた。
終盤で弟は、兄が最も愛した「奏でる歌は透き通った声で編まれたレース」であるメジロを飼うことになる。「外の世界にある音ではなく、自分の中にある音を聞こうとしている」怪我をした野生のメジロとの日々は、繊細で濃密な愛情に満ちている。ひょっとして小鳥は兄のお迎えだったのだろうか……。
人の本当の幸せとは何なのだろう。切なく静謐な余韻が残される物語。
さらば箱舟 [DVD]
寺山修司最後の映画作品。寺山はこの映画の公開直前になくなったそうです。舞台は日本のようですが、ガルシア・マルケスの小説『百年の孤独』が下敷きになっており、南米だか日本だかよくわからない不思議な雰囲気になっています。マルケスの小説と読み比べてみるのもおもしろいでしょう。
The Housekeeper and the Professor
小川洋子の装飾的な文の大部分が、ストレートな言い回しになっている。
それを読みやすさと取るか、行きすぎた省略と取るかは、英語を母語としない我々にとっては好みの問題であるのかもしれない。
猫を抱いて象と泳ぐ (文春文庫)
静謐でファンタジーとはまた違う
謎めいた世界が描かれていました。
どんな喧騒の中で読んでいても
今著を読んでいるときは”静けさ”という
純白のシェルターの中にいるかのような
感覚におそわれました。
そんな静寂の中、訪れる衝撃のラスト。
涙なしには読み進められませんでした。
著者の他の本にも興味が出てきました。
是非、購入をして読んでみたいと思います^0^
博士の愛した数式 [DVD]
数学という優しさとは一見無関係で無機質にみえる学問。そしてそこに含まれた素晴らしい未知なる世界に魅了されました。
80分しか記憶が続かない数学者「博士」とその家に通う若いお手伝いさん、博士の義理の姉、とお手伝いさんの息子√(ルート)の4人を軸に物語はすすんでいきます。
博士の口から何度も繰り返される一般的な質問に嫌がることなく常に笑顔で答えるお手伝いさんとその息子の優しさ、子供ながらに博士を守ろうとする√のけなげさと√の友達を含めた思いやり、そして彼らを取り巻く周りの美しい四季の風景と暖かさにすっかり惹きこまれました。
その優しい穏やかな三人の関係を悲しく、冷たい目で見つめる義姉、その心の葛藤と数学の公式に秘められた思いが見事につながり、素敵な映画に仕上がっています。
数学が苦手だった私でももう一度数学を勉強して見たいと思いました。
そして博士のような優しく、数学の面白さを人に伝える人から数学を習っていたなら、私も数学を専攻していたかな?とも思いました。