美味放浪記 (中公文庫BIBLIO)
本書は前半が国内各地、後半がヨーロッパ、アジアなど世界各地の食べ歩きの本である。といっても有名料理店を巡るのではなく、そこに住む人が普段食べるようなものを紹介しているので肩がこらない。その文章には、作家として、また日頃料理をつくることを愛してやまない著者のエスプリがちりばめられていて、思わず自分もその地に旅行してみたくなる。本書とあわせて、同じ著者の「檀流クッキング」をお読みになることをお勧めする。
わが百味真髄 (中公文庫BIBLIO)
1976年に講談社から出た単行本の文庫化。
壇一雄は「日本の三大美食エッセイストのひとり」と評されているらしいが、まさにそのとおり。素晴らしい本だった。
軽妙な文章、豊富な食の体験、奥深い人間性と三拍子そろっていて、文章を通して美味しさが伝わってくる。
エッセイの一篇一篇はわずか数頁だが、スッポン、濁り酒、ジュンサイ、ジネンジョなど、いずれの話も印象深い。飾らない文体も心地よい。
一気に読んでしまうのはもったいない一冊。じっくりと味わって欲しい。
檀 (新潮文庫)
沢木耕太郎「壇」を読了。無頼派の作家壇一雄を妻の眼から見たノンフィクション。壇一雄といえば「火宅の人」であり、その破天荒な面にスポットライトは当たっておらず、ある夫婦の物語と捉えることができる。どこにでもある物語。ただし、今回の主人公が壇一雄であったということだけである。作者の筆力によるところも大きいのかも知れないが、我々と違う人間の物語というより、ちゃんと自分自身のこととして捉えることが可能である。だから本書の世界に入ることができ、読み進めることができるのである。ある時代を生きた女性の物語として。その視線で本書は捕らえるべきです。
檀家が居を構えていた石神井。私の小学校時代をすごした場所です。石神井公園の近所の檀家も知っています。そのことも本書の世界観に近づきやすい一端なのかもしれません。
火宅の人 [DVD]
原作は著名な檀一雄の「火宅の人」。家庭を持ちながらも、様々な女性との情事。流浪のように流れ流れ流れる旅。しかし、原作のトーンとも通低するのが、暗く、憂鬱にならず、あっけらかんと明るいところが本作の特徴。普通これだけ問題があれば、家庭なんてめちゃめちゃなんだけど、すべての人間の真剣な切なさを持ちつつも、前向きに生きる明るさはとても良い。脚本・演技・演出の完成度も高く、かなり面白い。主演の緒形拳は放蕩しつつも憎めない「壇一雄」をはつらつと演じていてとても好感。監督は、あの「深作欣二byバトルロワイヤル」さんです。邦画って捨てたものじゃないです。