求天記―宮本武蔵正伝
アマゾン・コムの宣伝に惹かれて買った。宮本武蔵と佐々木小次郎の船島(後の巌流島)での試合後のことを書いた小説である。読んでみて、おもしろかったことは事実だが、何か物足りないものがあった。
武蔵好きの私としてはもう少し硬い文章で剣禅一如のような感じのものを期待していたので違和感を感じたのだと思う。少し深みが足りないな、と思ったのは、冒頭で、武蔵が世話になっていた妙心寺の紹'和尚の前で暴言を吐く場面を描いておいて、いかにも礼儀を知らない野人のように性格づけていたにもかかわらず、話が進むにつれていつのまにか丁寧な言葉使いをするようになったことに対する不自然さに対してであり、そうなるには何か心境の変化があっただろうに、はしょったな、という感が拭いきれない。私にとっての宮本武蔵の魅力は、狂気と熱情を丸出しの若い頃の性格と、晩年に近づいてからの求道者たらんところの隔絶に、人間としての成長を見ることができて、私自身の自戒や啓発のよすがとしていたのだが、この本ではそのようなことは書かれておらず、物語性に主体を置いている。
また、武蔵が大阪冬の陣で大阪方として戦ったとの説は司馬遼太郎氏も取っているが、この本では真田幸村との邂逅が描かれており、その会話などは作家としての忖度によるものなのであろうが、重みが無くて気に入らなかった。
この本は、武蔵外伝(本の表紙には「宮本武蔵正伝」と書かれていたが)とも言える内容なのではないのかと思った。それでも飽きずに読むことが出来たので、こういうこともあったのか、と思っておこう、ということで星三つにした。