グレイヴディッガー (講談社文庫)
かつて、ミステリーの新人賞である『13階段』で注目を集めたこの作家、
最近は直木賞候補にもなった『ジェノサイド』がかなり話題になった。
受賞は逃したものの、一部の評価は半端ではない。
というわけで高野和明という名前が気になっていたところへ、
同じ高野さんの別の本であるこの小説の新聞広告を見た。
そして広告の仕方もあるのかないのか、うっかり『ジェノサイド』の次の作品と思い込み、
文庫だし手軽でいいと思ってこちらを先に読むことにした。
同じような印象を持った読者はほかにもあるかもしれないが、
そうではなくて、実は単行本で出版されたのは2002年とけっこう古い。
2001年の『13階段』の翌年である。
考えてみれば、『ジェノサイド』も文庫化してないのに、そのあとの作品が文庫であるはずがない。
で、出版時期が近いせいか、読後感は『13階段』を読んだときにかなり近いものがあった。
『13階段』は、死刑制度という社会問題にも真摯に取り組んだ力作だった。
おそらくこの作者がベースに持っているある種の倫理性のようなものは健在で、
ここでも司法の腐敗や、いやもっと根源的に法で裁ききれない悪をどうするか、
という大問題が扱われている。
一方で、読んで面白いという特徴もますます磨きがかかっているというべきか、
謎解きが追う追われるというモチーフと絡んで、スピード感のある展開になっている。
入り込んでしまうとそう簡単には本を置けない。
しかし犯罪の組み立ては、大変に緻密なものだが、
一方で複雑すぎて読者としてはついていきにくい面もあるのではないか。
『13階段』の時にも感じた短所のようなものである。
もっともその辺はあまり考えなくても、展開の面白さでどんどん読めるのだが。
物語は、腐敗した司法の悪と、
その腐敗に気付いて、何しろ相手が司法がらみだからと自らの手で悪を倒そうとする者と
(これがタイトルの「グレイヴディッガー」である)、
立場上「グレイヴディッガー」を追いながらも、
その動機を考えて心穏やかではない刑事たちとの三つ巴、という形をとる。
「グレイヴディッガー」というのは、中世以来の魔女狩りにからむ歴史的な存在という設定で、
おそらくは作者の創造なのだろうが、相当リアリティがある。
犯罪にこうして伝奇的な要素を付け加えたところが新機軸か。
中世だの魔女狩りだのというので、当然のように犯罪行為自体はかなりおそましい生々しいものなのだが、
それにもかかわらず全体の印象はむしろ痛快!といってもいいようなものだ。
それは一重に、直接には何ら関係はないのに、たまたま事件に巻き込まれて、
ほとんど主人公といってもいいことになってしまう「ワル」の男のおかげである。
この人物設定が何と言ってもこの小説の肝であり、『13階段』とは違ったユニークな味を作り出している。
この男の逃避行も絡んで、実は三つ巴ではなくて四つ巴の展開である。
ワルではあっても、心を入れ替えて人助けをしようとしている途中に事件に巻き込まれるわけで、
そもそも「ワルの善行」というのは魅力的な設定に違いない。
人物造形の魅力は相当なもので、逃げまくるこの男は、
重要な鍵を握っているだけではなく、事件そのものの展開に決定的にかかわってゆく。
犯罪の動機やら組み立てだけでなく、話の展開にも相当強引な感じがあるのだが
(結末にオカルト的な要素を入れるのは賛否が分かれそうだ)、
その力感、スピード感を味わう中で、それもいいか、という気になってしまう。
質の良いハリウッドのアクション映画を見ているような感じとでも言おうか。
実際物語自体もかなり映画的だ。
というわけで多少ごちゃごちゃしているが、十分楽しめる。
評判からするともっと質が高いだろうということで『ジェノサイド』にも期待。
13階段 [DVD]
エンターテイメント色の強い作品の多いフジTVにしては骨太の作品を作ったものだと関心した。死刑制度、えん罪などについて考えさせられる。加害者と被害者家族たちの様々な思惑が交錯し、意外な結末を迎えるサスペンス。
反町は傷害致死により3年間の服役後出所した内向的な青年、服役時に看守だった山崎とえん罪調査の仕事を一緒にすることになる。これまでのイメージを変える押さえた演技が印象的。特筆すべきは宮迫の死刑囚、犯した罪の後悔と執行を待つ心情を見事に演じ、死刑制度の賛否を問いかける。山崎から母親のことを聞かされるシーンでは涙を禁じえない。クドカンがえん罪による死刑囚を演じているが可もなく不可もなく、ミスキャストか?(こんな死刑囚助けたくならない。by山崎)。
CGにたよらない増願寺は撮影所の天井制限のためか少々立体感に欠けるが、不動明王を含めたセットは素晴らしい。ネタばれになるので書かないがご都合主義でリアルでないと感じる部分もある(ストーリー上仕方ないのかも)。
反町と恋人の顛末は評価の分かれるところだが、私は救われた気がした。未来に希望を持てる暖かいシーンだ。タンポポの押し花(生花でないのでわかりにくいかも)も人間の業の深さを改めて実感させる。傑作とはいえないがその心意気や良し、今後の期待も込めて星4とした。
ジェノサイド
これはすごい。
「本の雑誌」で上半期ナンバーワンになった辺りから注目していたが、作者にこれといった印象がなかったので(そういえば乱歩賞で『13階段』てのがあったなあ、くらい)、しばらく様子見していた。
文庫化まで待とうかと思っていたが、我慢しきれず購読。結果、大正解。
できれば年に一冊くらいのペースでこのくらいの内容のものを書いて欲しいものだが、難しいだろうなあ……。
どちらにせよ、新刊が出たら読みたい作家が、また一人増えた。
幽霊人命救助隊 (文春文庫)
自殺した幽霊4人が、神から「自殺をしようとする人間の命をすくうのだ」と命を受け21世紀の東京に送り込まれる。49日に100人の命を救うための奮闘が始まる。
救助隊のメンバーが予備校生、ヤクザの親分、中小企業の社長、暗い雰囲気の若い美女…の幽霊。
しかもそれぞれ生きていて時代が微妙に違うので、話がかみ合わなかったり、なつかしい流行語が飛び出したりと、笑う場面がたくさん出てきます。
扱っている自殺について、正面から取り組んで描いてあるので読み応えがあります。
自殺願望のある人たちの心理描写や、幽霊達の悔恨の場面で何回も涙しました。
さらさらと読みやすく、笑わせてくれる、でも押さえるところがしっかりと描いてある。
とても面白い、良い本でした。
なるべく多くの人が読んでくれたら、と思う本です。
13階段 (講談社文庫)
最近感動するというほどの本を読んでないと思っていましたが、これは本当にメウロコ物。すべてのストーリーが一度で頭に入るくらい印象深いのに、部分的に感想が言えるほど浅い作品ではありません。法律的にも詳しいのに、心情的にも深いところまで探っています。人間性とはなんなのか、大変考えさせられる本です。他の本も読まなきゃ!