歌謡紀行IX ~松島紀行~
ますます円熟した歌を聞かせてくれる水森かおり。近頃ではさらに女っぽさが加わり、老いぼれの私をも元気づけてくれます。とりわけ「松島紀行」は聞きよいブルースで、新境地とも言えますね。私見ですが、「熊野古道」以来の大作だと思います。
徒花図鑑 齋藤芽生作品集
齋藤芽生さんは、東京芸術大学美術学部油画科常勤講師(女性初)という肩書を持つ画家です。今時、「女性初」という閉鎖的ともいえる「職場」があったことに驚きましたが、この作品集には良い意味で驚かされてばかりでした。
ある美術展で齋藤さんの作品と出会い、その風変わりで他に類をみない作風に惹かれました。偶然、彼女の最初の作品集と出会えたのは僥倖で、心おきなく彼女の描きたかった世界に没頭することができました。
あとがきに、作者のコメントがあり、本書の特徴を見事に言い表していましたので引用します。「『徒花図鑑』は、私が思いつくままに空想を働かせ、それら空想のものたちがこの世に存在するかのように図像で網羅した、架空の博物誌です。」とありました。
例えば23ページの「毛玉鶏頭」の筆者の説明では、「毛玉だらけの鶏頭。擦り切れたセーター姿の無精な女の家に咲く。」として表されていました。まさしく見たことのない鶏頭でした。豊かな発想と現代的な感覚、風刺や皮肉のスパイスも強烈で、それを具象化できる力量のある作家です。非凡さはページを繰るごとに感じますし、彼女の作品展を実際に見たいと思わせる魅力が伝わってきました。
本書のテーマです。花(徒花図鑑、徒花園、毒花図鑑)、窓(晒野団地入居案内、晒野団地四畳半詣)、旅(地霊に宿られた花輪、名もなき東京人のための花輪、瑣事鑑、密愛村)。
現代最高の美術評論家であり大原美術館館長の高階秀爾氏の「鮮烈な詩情の世界」は是非お読みください。齋藤さんの作品の特徴を見事に捉えた解説でした。
茨城大学教授の小泉晋弥氏の「齋藤芽生の花・窓・旅の行方」も実に参考になりました。審美眼をもつ批評家の鋭い視線が作品に注がれた瞬間、見えていないものが見えたようです。また帯の推薦が大竹伸朗氏、山下裕二氏ですので、それだけで本書の価値は計れると思います。
淡谷のり子~ブルースの女王~
カラオケで他の人が雨のブルース、君忘れじのブルースを歌うのを聞き、その曲に惹かれ涙がこみあげてきました。作曲が服部良一や長津義司、作詞が藤浦洸など往年の優れた方々。即アルバムを購入聞き、歌は作詞・作曲と歌手の3人の芸術家の力がミックスして人の心をうつのだと痛切に感じました。淡谷のり子はブルースの女王といわれていますが、このアルバムを聞いて彼女の真髄は、シャンソンにあると認識しました。特にアデュー、暗い日曜日、愛の讃歌は圧巻。淡谷のり子はカンツォーネ、オペラなどの声量もある日本の生んだ第一級の歌手であることがよくわかります。その人がより万感の思いをこめて歌いこなすこのアルバムは永遠に残ってほしいと思います。遠かったシャンソンがより身近になりました。ちなみに私は59歳です。新人の歌手が排出され、本物の歌手が育たたないなかで、大人が聞きほれるアルバムです。CDプレーヤーが壊れ、合わせてこのCDも一部壊れたため、追加で2個も注文してしまいました。
FAKIN' POP
「CDにお金を払ってもいい」と私が思える数少ないアーティストの1人、平井堅。
その彼の久々のオリジナルアルバムですね。
あまりに具体的で、誰にでも経験があるだろう「君の好きなとこ」。
ちょっと抽象的で、どことなく思い当たる節があり切なくなる「キャンバス」。
幸せでありながら、苦しく切ない「いつか離れる日が来ても」。
Stare Atの「キャッチボール」を思い出してしまう、「写真」。
彼の人生を聴いてるようで、ふと同世代の自分に重ねてしまうんですよね、この人の歌は。
今年はライブを頑張るそうなので、チャンスがあれば是非ナマで聴いてみたいです。
これからも応援しています!!