ミスティック・リバー [DVD]
クリント・イーストウッドが監督した映画には、いまいち結末が「腑に落ちない」ものがあるが、これをそのひとつだろう。
謎が謎を呼び、もつれていた糸が解かれ、ついに「真実」が観客の前にさらされるのだが、「伏線」が甘く、展開があまりに「ご都合主義」なので、「真実」を知った観客が「きょとんとする」のである。
ジミー、デイブ、ショーンの三人の幼なじみ。子供時代にある忌まわしい事件に遭遇し、デイブが心の傷を負う。25年後、ジミーの娘が殺され、刑事のショーンが捜査にあたり、やがてデイブに疑いの眼が向けられる。ここの展開は見事である。デイブは何かを隠している。いったい、何か?
ジミーは勝手に捜査を行い、それがデイブの悲劇となる。ところで、ジミーの娘殺しの真犯人は意外なところにいた。
デイブの隠していたことは、25年前のトラウマからきた事件。妻にも言えない。
刑事のショーンはジミーを捕らえない。最後のパレードの場面で、指でジミーを撃つ真似をするが、ジミーは手で払いのける。パレードで誰かを探し回るデイブの妻。彼女は夫に対する「不信」をジミーに密告していた。
ジミーの妻をはじめ、女たちは全く無表情。
分かりやすい映画とは言えまい。強いて解釈するなら、「人間は疑う生き物。疑いは不信に変わり、やがて強い憎悪となる。憎悪は新しい悲劇を生み出す。もし誰かが信じれば、この悲劇は防げた。しかし、人を信じることは疑うことより難しい。」
映像・音楽はこの重苦し映画に実に合っている。役者も芸達者ぞろい。特に、デイブを演じたティム・ロビンスはすばらしい。
ミスティック・リバー [Blu-ray]
毎回思うけれど、イーストウッドが作る映画は音楽がとてもいい。
「許されざる者」も「ミリオンダラー・ベイビー」も、
そしてこの「ミスティック・リバー」も。
胸に渦巻く「なぜ」「どうして」というやるせなさの嵐が、
エンディングに流れる曲を聞くと、不思議と穏やかになっていく。
ああそうか、そうなんだなって。
人間は、いったいいつから「幸せな人生」を望むようになるのでしょうか。
そしてどこまでが不幸で、どこからが幸せなのだろう、と考えてしまいました。
過去のトラウマに囚われ続け、大人になった今も抜け出せずにいるデイブは弱者であり不幸です。
本人の思いや努力とは全く関わりがなくても、それは認めなければならない現実。
どう見方を変えても変わらない事実。
だけど、この作品が伝えたかったことは、そこからもっと先にあるような気もします。
自分の弱さ、自分が抱え込んだ不幸と、人生をかけて闘ったデイブ。
自らの不幸(娘が殺されたこと)を受け入れられず、他人の幸せ(生きていること)を許せず、
自分(の人生)を愛するあまり他人を抹殺して欲望を満たしたジミー。
そう考えると、デイブの命が不条理に奪われたことは不幸に違いないけれども、
彼の犯した罪がその闘いによるものだったと明らかになったことは、不幸じゃない。
そのことで、私はかなり救われました。
不幸な人生が(たとえ不幸のまま終わりを迎えても)悪い人生ではないと思うから。
ファビュラス・バーカー・ボーイズの映画欠席裁判〈2〉 (映画秘宝COLLECTION)
電車の中で読んでたら、ついつい笑っちゃって、隣に座っていたオッサンに変な顔されちゃったよ・・・って感じの、迷映画批評対談集ですね。
といっても、「ギャハハハ」って笑うっていうより、ほくそ笑むって感じかな。映画批評で、読者を笑わせる必要があるかどうかは、ともかく馬鹿映画でも見たくなってしまうっていう意味では実に希有な存在の批評本でしょうね。
ただし、対談の内容が、それなりに映画知っていないと、ついてこれないんじゃないかなぁ。40代後半の著者二人にとっては、80年代なんて、つい最近のことかもしれんけど、20代の読者からすれば、もの心つく前のことだからね。古い映画を持ち出し、被告となった映画を語る(裁く?)場合は、脚注ぐらいあってもいいなって思ったんだけど。
まっ、「わからない映画があったら見るんだよ!」って言われそうですが、もうちょっと親切でもと思ったのは、私一人でしょうか。
「世界」はそもそもデタラメである (ダヴィンチブックス)
ダヴィンチというやわらかめの文芸系雑誌で連載されていた、宮台真司氏の“映画評”………もとい、映画を題材にした社会学と哲学のお話をまとめた本です。連載当時のものに加筆されてるようです。
映画評といいながら、映画の話よりも社会学や哲学についての話が多いです。取り上げられてる映画も、前作の『絶望・断念・福音・映画―「社会」から「世界」への架け橋』と比較すると、ちょっと偏りがある感じもします。好きな人じゃないと観にいかないような韓国映画とか、DVD入手ができないコンペ出品作とか、普通の人が映画館で観にいかないような映画が、前作に比較すると多いかなと感じました。
一応、取り上げられている映画は、本文内で言及されているものも含めて8割以上観ました。そうしたら、………………心を病みました………………(汗)
「ボーン・アルティメイタム」とか「フラガール」みたいなヒット作も取り上げられているんですが、もちろん本文中では重たい切り口から語られてるし、「シルミド」とか「ミスティック・リバー」なんかは、観るだけで十分疲れちゃいますから!!それぞれを時間を空けてならいいんですが、一気に観るものじゃありません。
おそらく、映画にかぎらず、社会学・哲学・文学なんかを学ぶ人にはとてもいいガイドになると思うし、映画制作にたずさわる人や、文芸系の人にはとても受けると思います。こういう切り口で映画を語ることができると知るのはとてもよいこと。読んだだけで、頭が良くなった気分になれるのもおいしいところ。
でも、実際にこれを普通の社会人が、映画を観るときの参考にできるかっていったら、やっぱりちょっと違うのかなと思ってしまいました。
宮台さんの中では、映画を観る人たちのレベルを底上げして、「恋 空」とか「セカチュー」じゃなくて、「21グラム」や「亀虫」みたいな本当に良い映画がもっとたくさんの人に観てもらえる環境を作りたいんだろうなと思います。
でも、日常的に映画を観る習慣がない、休日のものとして映画を観る平均的日本の社会人が、お休みの日にわざわざ、観た後に疲れちゃうような映画に足を運ぶかなぁ…。私だったら、「デトロイト・メタル・シティ」とか観ちゃいます。
だって、ただでさえ仕事でくたびれてるのに、休みの日にわざわざ滅入るものや、観た後に疲れるものを観なくてもいいじゃんって思っちゃう。たまぁに気が向いてDead presidentsとかMenace II Societyとか観るときは、「観るぞ!」って気合を入れて観るけど、エンドロールの頃には、やっぱり思ったとおり疲れてる。
…とネガティブなことを書いてしまいましたが、これを読んで、宮台さんはとてもロマンチックな人なんだなって思いました。いろいろな映画をとりあげて話をしているけれど、何度も何度も繰り返されるのが、「入れ替えの不可能性」についての話。
社会学的には、人っていくらでも入れ替えがきくことになってます。Aさんの妻がB子さんなのはたまたまで、B子さんがいなかったらC子さんがなってたって具合に。仕事なんかはすごくわかりやすいけれど、人っていくらでもリプレイスがきく。
でも、宮台さんは、入れ替えの利かない、代理じゃ意味がない、Uniqueな特別な絆があるということをとても強く信じてるんですよね。だからロマンチストだなぁって思います。
何かにつけて、「どうせ誰でもいいんでしょ?私の代わりはいくらでもいるもの」と投げやりになりがちですもんね、今時の私たち。でも、たぶんあるんです。特別な、その人じゃないといけないっていう絆。というか、あると信じられなければ、誰もが投げやりになってしまう。彼の言ってる”承認”の話って、難しい言葉でいろいろと語られているけれど、誰かにとって自分が特別だと信じられること、そういうことなんだと思います。
ミスティック・リバー 特別版 〈2枚組〉 [DVD]
サスペンスものなので、あまり内容を詳しく書くとつまらなくなるのでヤメておきますが、とにかく重たい作品です。
話の最初と最後がショッキング!(間はトラウマと現在を繋ぐ)たぶんほとんどの人がラストは予想できないかも。
重たすぎて観おわった時にはグッタリと疲れているかも知れません。
休憩的な感じで笑えるシーンなども勿論ひとつもありません。
でも観る価値は十分あります!というより「観ておかなければならない」と言ったほうが良いかも知れません。
日本人にはあまり馴染みのない犯罪かも知れないし、いまいち気持ちが理解しづらい人もいるかも知れないけれど、これが現実に(特にアメリカ等では)起こっている事実なんだと思うと、とても考えさせられます。
最近は日本での犯罪も今までは映画や本でしかなかったようなモノが増えて当たり前に起こっているので他人事ではなくなっていますが。
とにかく暗く重いテーマなので「元気をもらう為に映画を観る」派の人には向いていません。
しかし実力派俳優豪華3人の個性と演技の競演を観るだけでもかなり引き込まれますよ☆
実際にこの作品でショーン・ペンは主演男優賞を取ったし、ティム・ロビンスは助演男優賞を取りました。私としてはこの二人のどちらがどちらの賞を取っていてもおかしくなかったと思います。
ティム・ロビンスもショーン・ペンも主役って感じがしましたし。
ケビン・ベーコン好きの私としては彼にも何か賞をあげて欲しかったけれど(笑)
ケビンは話の内容的にこの3人の中では一番目立てない役どころではありましたが(ちょっと損?)でしゃばりすぎず、それでいて存在感はある素晴らしい名脇役になってくれてます。さすがの一言!