<ホラー番長シリーズ> ソドムの市 [DVD]
『女優霊』、『リング』、『新生・トイレの花子さん』といったホラー映画の脚本を手がけてきた高橋洋の長編初監督作ということで、本格的な恐怖を期待して観ると肩透かしを喰らうだろう。
これはむしろ、過去の高橋洋脚本作の中では『発狂する唇』のテイストに近く、脱力ギャグも狂気もアクションも何でもありの幕の内弁当映画なのだ。
監督本人は60年代にドイツで作られていたマブゼ映画と呼ばれるチープな犯罪映画の再生を狙っていたようで、悪役となる俎渡海(ソドム)一味のくだらない犯罪の数々が映画の主軸かも。
かつて冤罪で処刑された美しい腰元が輪廻転生で現代に生まれ変わり、これまた悪党として蘇えったかつての主の犯罪を追うという、文字にして説明するのが難しいような(笑)ハチャメチャなドラマが展開。
俎渡海を倒そうとする非情な女捜査官テレーズを、『3年B組金八先生』や『水の中の八月』で強い印象を残した小嶺麗奈が演じているが、この映画では高橋監督の要求に応えて過去の出演作の印象を一新するような強烈な芝居を見せている。
中でも容疑者の男に自白させるため、片方のキン●マを蹴りつぶすシーンが凄い!
列車の脱線転覆やB29の飛行シーンは、あからさまにミニチュアを使っていますという画面だし、アジトの安っぽさなど失笑する箇所も多いが、それらをひっくるめて馬鹿馬鹿しさを楽しめる人向けのリトマス試験紙みたいな映画。
ホラー番長 スペシャルBOX [DVD]
ユーロスペースで上映された企画「ホラー番長」の4作品を集めたボックス。
単品のソフトが4タイトル収められ、さらに特典ディスクが1枚追加されたセットがこの価格なら、かなりの割安でお得感が高い。
特典ディスクの内容は、ユーロスペースでの監督&女優のトークショー(『稀人』と『ソドムの市』)、監督&キャストの対談(『月猫に蜜の弾丸』と『運命人間』)、そして『稀人』『ソドムの市』のメイキングが少々と「ホラー番長」の予告編。
特典ディスクの内容は非常に物足りない。
ボックスに収められた単独ディスクは4枚とも片面一層で、それぞれの映像特典内容は初日舞台挨拶だけだったのだから、まだまだDVDソフトとしては容量が余っている。つまりこの特典ディスクの映像素材は、各単品に振り分けても問題ない。そういう意味ではメーカー側の商魂にはいやらしさを感じるが……。
まぁ、単品でちょびちょび買うぐらいなら、これ1箱買ってしまった方が安く上がるのは確かである。値段的にサービスしているのだから高望みしても仕方ないが、同梱特典にブックレット(解説書)は欲しかったところだ。
(★ホラー番長4作品の単品商品に関しては個別にレビューを書いているので、そちらを参照して下さい)
パゾリーニ・コレクション ソドムの市 (オリジナル全長版) [DVD]
エログロにまず目がいきますが、非常に批判的で真剣な内容の映画です。が、これは単なるファシズム批判でも権力批判でもなさそうです。要するにこの映画の言いたい事は、人間は獣であり、犬畜生にも劣る直視に耐えない欲望を抱えたどうしょもない存在だ、ということなんだと思います。その批判は観客だけでなく監督自身にも向けられたものであることは、醜さをありのままに捉えて表現せず、洗練された高い美意識によってそれを映像化し、監督自身の「獣の美学」を余すことなく映し出していることからも推測できます。つまり監督は器でも表現してみせたのです。内容からしてもこのような危険な方法でこの作品に臨むことはそれなりの覚悟を要求したでしょう。主張はありふれていて多少説教臭くも感じますが、自身の内部を見つめ、獣と共に生きた監督だからこそこの作品をつくることができたのかもしれません。 欲望と権力の行き着く先を描いてみせたこの作品は、我々の心の内に潜む獣の本性を極端な形であぶり出し、それに直面することを要求しています。それに目を背け直視しないとすれば、またナチスのような悲劇が繰り返されるだろうという反戦的な情熱の他にまた違った情熱を感じたのは私だけでしょうか。