春を恨んだりはしない - 震災をめぐって考えたこと
著者の朝日新聞のコラムが好きなのですが、本書はちょっと期待外れでした。
単行本ですから、全編にコラムのような切れ味鋭さを期待するのが間違いなのでしょう。
本書はどうも情緒的で湿っぽく感じられ、個人的には苦手ですね。
スティル・ライフ (中公文庫)
耳元をかすめる冬の風、雪のにおい、星のまたたき。
理科の教科書の天体観測の章、あの感じです。
しし座流星群があたまの中で降ってきます。
何よりもきれいな言葉、しつこくない文章は
ほかの池澤作品に比べても完成されているように思います。
池澤入門にはもってこいではないでしょうか?
木下牧子混声合唱作品集
池澤夏樹の詩集『塩の道』から抜粋された5篇の詩で構成されている『ティオの夜の旅』の第4曲目「ローラ・ビーチ」に寄せて・・・・。
とても抒情的な曲です。過去の多くの合唱曲と比較しても比類のないほどの美しいメロディーとハーモニーを持った曲です。池澤夏樹の詩は、海に関わる言葉を印象的にかつ象徴的に並べ、悠久の時の流れをゆっくりと紡ぎだしています。
自然が創り出す神秘の世界をかくも詩的に表わした池澤夏樹も素晴らしいですが、それに流れるようなメロディーを与えた木下牧子により、ハッとする美しさを持った合唱佳曲が誕生しました。ピアノ・パートがその音楽の美しさに彩りを添え、華やかさを増します。ただ、特に、大切な箇所は、ア・カペラで歌われます。このコール・ソレイユは良く歌っています。学生合唱団としては本当に一生懸命で若々しさが溢れています。
それにしてもセブンスやナインスといった複雑で上品なコード(和声)進行が本当に聴いていてもうっとりとするくらいですから、歌う人の気持ち良さはまた格別なのでしょうね。
そして、この「ローラ・ビーチ」に続く終曲「ティオの夜の旅」の圧倒的なスピード感と迫力。木下牧子のお得意の変拍子がここでも効果的に使われています。
ただ、実際、これをうまく歌いこなすのは難しいでしょうね。流石にテノールも地声が目だったり、音程が不安定だったりします。ライブ録音特有のキズもありますが、なにしろそのラストに向けての心の高まりは聴いていても惚れ惚れします。
この4曲目と5曲目の繋がりと対比が『ティオの夜の旅』の魅力を増加させています。それはこのCDでもよく理解できました。
第1曲目の厳粛な雰囲気を称え持つア・カペラの「祝福」と合わせて、この『ティオの夜の旅』が多くの人に愛されている理由がよく理解できます。
演奏の出来は、『方舟』の方が安定していますが、『ティオの夜の旅』も音源としてアマチャア合唱団のお手本になると思います。
ラストの「夢みたものは」は何回聴いてもジーンときますね、本当に名曲です。
テオ・アンゲロプロス全集 DVD-BOX II (ユリシーズの瞳/こうのとり、たちずさんで/シテール島の船出)
ユリシーズの瞳。それは幻のフィルムを求めての旅。そしてフィルムは希求としての始まりの世界、つまりはこの世界の再誕を錯覚させる虚構としての20世紀の開始であるのかもしれない。かつて故郷を逃れたひとりの旅人は長いときを隔てて帰還する。変り果てた土地。開始される遡行と探索。凍てつくバルカン半島は悲痛である。ひとも建物も河もすべてが閉ざされている。あらゆる外界が静かな拒絶をもって、あるいは無視を装うかのように他者の眼差しでそこに佇む。歴史の夢が、記憶が、そして祈りがゆるやかに交錯する。民族、宗教、イデオロギー。ひとは多くの衣を纏っては次々と脱ぎ捨てていく。希望はいまだ宙吊りのまま冬景色のなかで凍結している。そのフィルムに果たして写っていたのは、原初の光であるのか、わたしたちは未だその答えを見出せないまま映画を観終わらねばならないのである。
テオ・アンゲロプロス全集 DVD-BOX IV (永遠と一日/再現/放送/テオ・オン・テオ)
時間とは誰が考え出した概念かを考えた事がある人は多いはず。ほんの一瞬があなたの中では永遠でありずっとまわり続ける。現実と頭の中の現像と…。時間はたくさんのドットのつながりであり後ろに後ろに飛んでいきまた前に戻る。この映画は類まれな美しい映像と表現方法で言い表せない世界を作り出した、唯一の映画である。DVDになるのをもう十年くらい待っているがならないらしい…。