打ちのめされるようなすごい本 (文春文庫)
これだけ今後読みたい本が見つかってしまい。うれしい悲鳴。
筆者の目線は、ニュートラルな中にも微妙に弱者より。その按配が絶妙で、書評を読んでも嫌な感じがないし、筆者の本に対する愛情に身をゆだねることができる。
ロシアが好きな人、猫が好きな人、特に楽しむことができると思います。
もちろん、すべての本好きな人には、多くのこれから読みたい本が見つかることを保障します。
時間がある時に、この本で発見した今後読みたい本をリストにしてみたいと思っています。かなり多くの人に薦められている本ですが、その評判通りの素晴らしい本でした。
不実な美女か貞淑な醜女(ブス)か (新潮文庫)
通訳という仕事の中身とその困難、そして、やりがいを米原さん本人と通訳仲間のエピソードを盛り込みながらユーモアたっぷりにつづったものです。培われた経験から述べられる言語と文化の関係はずっしりと重く感じられます。
消極語彙と積極語彙、冗語についてなど、語学を学ぶ人にとって有用なことがたくさん書かれています。盛りだくさん
オリガ・モリソヴナの反語法 (集英社文庫)
上に書いたのは、本文中でオリガが発するセリフです。 反語法って、言語学にまつわる話なのかな?とか予想していたら、思っていることとまったく反対の意味の皮肉を込めた、罵詈雑言のことでした。 本を読めばすぐ分かりますが、人間というものの本質にまでも迫る秀逸なタイトルだと思います。
現代日本社会に生きている私たちにとって、この本に書かれている内容はショッキングです。過酷な時代を生き延びていくためにオリガが身につけた反語法−それがユーモラスかつ美しいものにまでなって私たちの心に響いてくるところに米原さんの筆力を感じさせられました。ただ、小説としては、関係者たちの証言が間接的にえんえんと続く部分が多く、すでに“嘘つきアーニャの真っ赤な真実”を読んでしまっている読者にとっては、やや臨場感が薄い事は否めない気がします。 “アーニャ”の場合、すべて米原さん自らが、当事者たちの口から証言を聞きだしていたのですから。 これを小説デビュー作として、さらに2作、3作、とすごいものを発表していただきたかったのですが、突然のご逝去によりかなわぬ夢となってしまいました。 こんな骨太な作品は昨今少ないだけに、日本小説界にとって大変な損失です。
必笑小咄のテクニック (集英社新書)
洒落、ジョーク、小咄等の落ちの解説ほどつまらない、くだらないものはないと思うが、本書はそれをあえてやってしまおうってとんでもない本である。しかし、落ちまで持っていく小咄等の話の流れの解説は、なるほど、そうか、そうですかってんで、なかなか薀蓄のあるものである。
東欧系の共産主義と日本共産党の薫陶を受けた著者ならではの、皮肉に満ちた批判精神は読んでいて清々しい。とりわけ、前の小泉自民党政権に対する辛辣で手厳しい批判は並大抵のものではない。
落ちの解説をうっとうしいと思う人は、小咄だけを読んでも大いに楽しめることいけあいの「ネタ帳」である。
嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)
日頃あまり馴染みのない中・東欧が舞台なので、最初は少し読みづらいかなと思った。しかし、段々と引き込まれて結局一息に読んでしまった。主要登場人物のリッツア、アーニャ、ヤスミンカ、その家族、その他の同級生…、こうした人々が、自分たちの祖国、属している民族と如何に切っても切り離せない存在なのかということが圧倒的な迫力で胸に迫る。筆者も、そして我々日本人もそのような存在だからなのだろう。中・東欧の事情も骨太の筆力で描かれており、是非一読をお勧めしたい。