死に花 [DVD]
軽やかなハラハラドキドキ感があり、ジンワリとした独特の魅力を持つ映画です。
とにかくキャラが立ってるのがいい。老いの悲哀を漂わせる藤岡琢也。コミカルな役で水を得た魚の青島幸男と谷啓。したたかさを持つ二枚目の宇津井健。物語を牽引していく山崎努。存在感のある長門勇・・・と、役者を見ているだけでも楽しめます。なかでも松原智恵子は、いまどきの女優たちが失ってしまった奥ゆかしい美しさを湛えていて、星野真里の水着姿より松原智恵子のセミヌードのほうが色っぽいほどでした。
桃どころ岡山出身・長門勇への贈呈品が「白桃」の缶詰といったコアなユーモアあり、『七人の侍』を手本にしたような体制への反骨精神あり、サクランボ銀行が傾くシーンなどに込めた権力へのあてこすりあり、満州からの引き揚げ・集団疎開・防空壕など戦争体験のエピソードありで、味わい深く、単なる老人たちの冒険物語には終わっていません。
銀行強盗のために穴を掘るという肉体労働は、老人にとっては可能性との戦いじゃなくて、不可能との闘いであり、命がけ。その重労働をメインに、山崎努と松原智恵子の恋物語や認知症など老いるショックをサイドストーリーに織り交ぜながら、ときにコミカルに、ときにシリアスに、実に丹念に描かれています。
老人ホームの怒りっぽい男、生前葬を執り行なう葬儀屋代表、生前葬でジャズを奏でる演奏者、図書館の美人司書など助演・カメオ出演の役者たちのハマリ具合、そして銀行強盗計画に込められた真の意味は見てのお楽しみ。ビング・クロスビーの「人生は楽しむためにあるもの。苦しみは味付けに少々」をはじめ「苦しみや悲しみも愛おしい」など、決め台詞の数々が生き生きとして気持ちに響いてきました。
もう少し娯楽性を強く持たせてほしかったという点で★4つ。こういった「老いは楽し」というテーマをあつかった映画がもっと増えればいいのになあと思います。