ニコライ二世とアレクサンドラ皇后―ロシア最後の皇帝一家の悲劇
ロシア革命については概要を知っていたきりだが、この本は途中で飽きることなく興味深く読むことが出来た。最後の皇帝ニコライ2世についてその親のアレクサンドル3世とマリーヤ皇后の性格や作った家族の性質からじっくり書いていき、ニコライと妻アリックスの性格、彼らをとりまいていた当時の欧州皇族の性格と生活、彼らがロシアで作った家族の雰囲気、普段の生活や5人の子供たちについての描写が非常に丁寧で細かい。翻訳もうまく、文章から決め付けややたらの推測を感じることなく素直に読むことが出来る。過度にロマンチックだったり悲劇的だったりすることもなく淡々と書き込んだ文章である。断定的なところがあったとすれば、2人の間に生まれたただ一人の皇太子アレクセイが血友病であったことをロマノフ王朝崩壊の大きな基盤としているころであるが、これは(本の巻頭に触れられているとおり)著者自身の子供が血友病で苦しんでいるためであろう。作中の血友病発作の描写は真に迫り、見守る母親アレクサンドラがどれだけ苦しみ、結果としてラスプーチンに傾倒していったか、アレクセイの持病を国民に隠していたために王室とロシア民衆の間に大きな隔たりができたか、著者自身の子供が同じ病気ゆえに、その洞察は真に迫っている。
この本は名のとおりニコライ2世と皇后の人物に的を絞って書いているが、分厚い本ぎっしりに書かれた洞察は、何度読んでも興味深い。贅沢をいえばこの著者の筆力で、ニコライ2世より前、ピョートル大帝からエリザヴェータ女帝にいたるまでの近代ロシアの歩みも書いて欲しかった。
血液病レジデントマニュアル
血液内科の先生から推薦していただいたこの本
一般内科を専攻している自分にとって、いわゆる「初学者」むけや、血液内科を専門にしていない方を対象にした血液学の本は少ない印象でした。
この本は日常臨床で遭遇するWBC上昇、血小板減少などの鑑別、検査が掲載してしてあり、これは、今までの血液内科の本には、書いてありそうでなかった
内容で、患者の異常が血液疾患によるものか、否かから判断する一般内科の自分にとって非常に日常臨床の助けになります。
また、もちろん疾患別の内容も非常に簡潔にまとめられており、血液内科の初学者の方にもお勧めの一冊です。
安部英医師「薬害エイズ」事件の真実
本書を読むまで恥ずかしながら、“薬害エイズ事件”について新聞・テレビが報じていた安部医師の責任問題に何も疑問を抱いていなかった。
しかし、本書を読んで安部医師はマスコミによって悪者にされた悲しい人物であったことを知り、怒りを覚えた。
毎日新聞、櫻井よしこ氏などが主張していた、
「安部医師がミドリ十字から金銭を受け取った、治験を遅らせる便宜を図った」
という事実は1つも存在しなかったのである。
特に櫻井よしこ氏が安部医師のインタビューを捏造し自分の主張を正当化していたという事実は、強く非難されるべきであろう。
さらには、検察が当時の最先端のHIV学者であるギャロ博士やシヌシ博士(2008年ノーベル生理・医学賞受賞)などに嘱託尋問を行ったが、
証言内容が安部医師に有利であったため、証言をなかったものにしてしまったという事実にも呆れてしまった。
安部医師がクリオ製剤研究のために自分の血液を使い、重症貧血で倒れたという話には感動した。
安部医師は血友病患者のため、文字通りクリオ製剤の研究に心血を注いでいたのである。
さらに「日本血友病友の会」設立や財団化の資金集めにも尽力し、安部医師が人間としても素晴らしい人物であったことがよくわかった。
残念ながら安部医師は既に亡くなられているが、是非本書がたくさんの人たちに読まれて安部医師の名誉が回復されることを強く願っている。