童夢 (アクションコミックス)
最初に読んだときの印象が「火曜サスペンスっぽい刑事ドラマになぜか超人ロックがフュージョン」でした。誤解している人もいるようですが、漫画で本格的な超能力戦を描いたのは聖悠紀の「超人ロック」のほうが先です。サイコキネシスで構造物がグシャっと潰れる描写も聖悠紀が79年(童夢が描かれる1年前)にやっていて、当然、この漫画にも強い影響を与えています。
全編にわたってものすごい画力に圧倒されますが、本質的には映画でいうカメラワークのほうが図抜けた才能ということがわかります。CGが使えない時代にあのカメラワークで画面を描いていった発想は天才というほかなく、手塚治虫がライバル心を剥き出しにして「あんなものは俺でもできる!時間さえあれば!」と絶賛した逸話も、もっともな話です。手塚先生が貶す=絶賛、ということは皆さんもご存知でしょう。
私はリアルタイム世代なので、もちろんこの本の初版と原稿原寸大豪華本を持っています。原稿原寸大で読むと迫力が違います。例の爺さんの見開きとか特に(笑)。緻密な描きこみと同時に些細なベタの塗り忘れもあって、大友先生も人間なんだ、と安堵したことを覚えています。
あと、この漫画のイメージアルバムが出ています。ジャケット画は大友先生の書下ろしです。テクノ系ロックで漫画の世界を見事に表現しています。大友先生本人がライナーで絶賛しています。CD化されていませんがyoutubeなどに上がっていますので、聴いてみてください。
個人的には、この作品以前の毒のある短編漫画のほうが好きです。童夢以降の作品は急速にエンタメ化したのがちょっと残念に思います。毒のある芸風⇒エンタメへという変遷はタモリに似てるような気もします。邪道⇒王道ですね。
ハイウェイスター (アクション・コミックス―大友克洋傑作集)
大友克洋は、空気の描き方が優れている。
絵の上手さ、パースペクティブの正確さはもとより、
登場人物どうしの距離感、感情の起伏の振幅など、
その感覚…というか間隔が、きわめて印象的な空気感を演出しているのだ。
大友作品の結末で最も多く描かれているのが、「別れ」である。
感情的に、物理的に、人物と人物の距離が無限に開いていく。
その距離と速度、互いの関係の断絶は、読者の感情を強く揺さぶる。
たとえば「スカッとスッキリ」のラストシーンの、
主人公と扇風機のスイッチの距離のどうしようもなさは、
さながらミケランジェロの「アダムの創造」のようでさえある。
大友克洋が選んだ「距離」を味わいながら読んでみたい一冊だ。