豊島与志雄童話の世界
西洋民話と日本民話の融合と再生――豊島与志雄の童話を読み解く。「レ・ミゼラブル」などフランス文学の翻訳者であり、「赤い鳥」の童話作家だった豊島与志雄。戦前、戦後にかけ100編以上の童話を残し、自由と自然への讃歌に満ちた豊島与志雄の童話とは。
完訳 千一夜物語〈9〉 (岩波文庫)
「眼を覚ました永眠の男の物語」おなじみのハールーン・アル・ラシードが、またたちの悪いいたずらをしでかしている。もっとも、少々仕返しされているが。
「無精な若者の物語」この若者は相当なものぐさ太郎で、ほとんど病気だが、謎の猿によって裕福になるという話である。
「若者ヌールと勇ましいフランク王女の物語」ヨーロッパ人が好意的に書かれた一例。と言っても主人公だけ特別扱いなんだが。男の性的不能を嘲る詩が出てきたりする。
「処女の鏡の驚くべき物語」西洋の文学で、処女にこだわった著述は山ほどあるんだが、これは相当なこだわりを感じさせる話だ。
最後に「アラジンと魔法のランプの物語」所収。アラジンのキャラクターが魅力的である。
豊島与志雄 白蛾 (日本幻想文学集成)
表題作「白蛾」は終戦の夏という特別な時間が、まるで遠い異界の出来事の様に語られている。
そこには人々の雑踏も群集のざわめきもない。
淡々として、静かで美しいのに、どこか空虚な気持ちを抱えている。
こんなはずはあるまい、と他の作家の文章の事を思うのだが。
しかし、このどこにも持って行き様のない、カラッポの気持ちには幾分か真実があるような気がする。
作者の豊島与志雄は海軍学校の教官で芥川龍之介や内田百けんなどとも同僚だったそうだ。
こうした人達の文章の中に時折名前を見ながら、その著作を手に取る機会がなかった。
正直、この作品を読んだ今でも他の作品を買おうかどうか迷っている。
しかし夏が近付くと無性にこの「白蛾」が読みたくなる時がある。
また近いうちに図書館に借りにいくかもしれない。