ジャンプ (光文社文庫)
男目線の小説、とても面白く読みました。
この手のテーマを女の視点から描くと、
どうも重かったりドロドロしているものですが、
この、一歩離れた感じが心地よかったです。
最初はミステリーのつもりで読み始めたのですが、
途中から恋愛小説と思って読みました。
登場人物の描き分けが素晴らしく、
この主人公・三谷が実在していているかのようで、
もしかすると実際にあった話なのかも、と思ったりしました。
人生というのは、全て二つの分かれ道でできていると、
何かの本で読んだことがありますが、
まさにそれを地でいった小説でした。
切なさが残りました。
評価は様々のようですが、わたしはとても好きな一冊です。
秘密。―私と私のあいだの十二話 (ダ・ヴィンチ・ブックス)
日本テレコムShortTheater「心をつなぐ言葉たち」などで掲載されたものをまとめた短編集で4年ほど前に発売されています。
江國香織、辻仁成の「冷静と情熱の間」みたく同じ場面を違った視点で綴られたストーリーがセットになっています。
作家はみんな有名な作家さんで豪華ですね〜。
ひとつが4,5ページで12×2の24編なので一気に読み終わりました。
通勤時間などに読むのに最適な感じがします。
私は有栖川有栖 小川洋子 唯川恵 の作品が気に入りました。
中でも小川洋子の「電話アーティスト」は心温まる物語で良かった。
「人を好きになる」ってこういう事を言うのだなと思った。
人を好きになっている人の家族も幸せを感じていて、
それが感じられる文章で心がホッとしました。
一番のお気に入りです。
ミステリー好きとしては
有栖川有栖の「震度四の秘密」は楽しませてもらいました。
秘密はいけませんぞ( ̄▽+ ̄*)
唯川恵の「<ユキ><ヒロコ>」は
この2視点から綴る手法を上手く使っているなと感じました。
ぱっとみると幸せだろう人とそうじゃない人でも、
本人はそう思っているとは限らないってところ。
なるほどな〜と感じました。
他にもお気に入り作家である
北村薫 伊坂幸太郎 三浦しをん も満足しました。
あえて言うなら、
ひとつぐらいはすごく暗い話やハラハラドキドキする話
が欲しかったかなぁ。
例えば道尾秀介とか入っているともっと気に入るのだけど。
あ、4年前ならまだ道尾秀介は有名じゃなかったか。。
アンダーリポート
検察事務官の古堀は19歳の村里ちあきの訪問を受ける。ちあきはかつて古堀とは隣人の間柄で、15年前に父を殺害されていた。第一発見者でもあった古堀は、この訪問をきっかけに犯人探しの調査を始めるが…。
この物語の殺害トリックは、ある登場人物が明確に指摘するように、ヒチコック映画で取り上げられた著名なものです。ですからこの小説はそもそもトリックの巧拙を求める物語ではないといえます。
では佐藤正午は何を意図したのでしょう。
私はこの物語が冒頭と終幕に同じ場面を描いている点を重視します。読者は最終ページにたどりつくと同時に物語の最初のページに引き戻される仕組みになっています。終幕と冒頭の接合によって生まれる円環関係から脱出することのできない読書体験。この物語の中で読者は、閉じた系の中に永遠に閉じ込められることになります。
そしてその循環し続ける物語の中で私は考え続けるのです。15年前に殺害事件にいやおうなくかかわらざるをえなかったかもしれない女たちの、やむにやまれぬ思いについて。
「もし戒める力がどこにも見つからなければ、いまあなたがやろうとしていることはあやまちではない。」
「人が、人と、なるべく出会わないように注意して生きていけば、不幸に見舞われる確率も下がるに違いない。」
「あなたが、あなたの人生を賭けて、その男を殺したのはわかる。」
殺害に関わったかもしれない女たちの言葉は、あらまほしからざる哀しい真実を言い当てていて、心に添うのです。だからこの言葉を前に私は抗する力を失い、茫然とし、息苦しさを感じないではいられません。この閉じた系から出るために、私は人生の中でどう考え、何をなすべきなのか。
その答を探すこと、そしてこの閉じた系を断ち切ること、それこそが、この小説で佐藤正午が突きつける私への宿題であるような気がしてならないのです。
アンダーリポート (集英社文庫)
最後のページを読んだあと、いやがおうでも最初のページから読むことになる小説です。 かといって、全てが提示され、スッキリした読後感を得られるわけではありません。 謎はそのまま残されます。 例えば…定期的に逢うSは彼女たちと繋がっているのか?あの事件のため、何故Mと別れることになったのか?…など。 主人公の「憶測」で組み立てられた、物語の合間に、作者は読者にも「推測」することを要求します。 超絶技巧な小説です。 佐藤正午の新境地で在るのは、間違いなさそうです。
きみは誤解している
なかなか珍しい競輪だけを題材に扱った短編集。
おそらくは氏が相当に競輪にのめり込んだことがあるのだろうと伺わせられる。競輪ファンならグサリと心に突き刺さってくる競輪の、そしてギャンブルのエッセンスを見事な筆致で男女関係、金銭関係などに絡めて描いている。
この短編集を読んで「ひと事」のように笑い飛ばせてしまう競輪ファンは、無自覚のうちに破滅の道に突き進んでいるのかもしれない。
突き刺さって「ちょっと競輪控えようかな」と思うくらいが競輪との距離感を上手く保てているファンなのではあるまいか。
競輪を嗜まない向きにはどうか。「この本を読んで競輪に行きたくなる」、競輪に向いている証拠であろう。しかしそれは「破滅」へと向かう「素質」も持ち合わせていることの証左に他あるまい。
つまらないことを色々書いたが、とにもかくにも天才・佐藤正午の筆に尽きる。