エストニア紀行: ――森の苔・庭の木漏れ日・海の葦
私にとっては、超マイナーな国でしたが、行ってみたいと素直に思えました。コウノトリをみてみたい。さらりとした印象のエッセイだけど、深くて熱い作者の思いを感じ取れる作品です。
雪と珊瑚と
シングルマザーが身体に優しい惣菜を扱うカフェを開く。
梨木香歩さんの本にしては今時の題材を扱った小説です。しかし、読後感は「なんとなく浅い」でした。
作者の中でストーリーがよく練られていないまま本になってしまったような気がします。
偶然目にしたチラシから広がる人の縁が主人公の支えとなり導きとなり、カフェを開店させるに至ります。
目当たらしかったのは、店を開くにあたっての運営コストの計算や行政の支援を得るくだり。
まるでカフェ開店の指南書のように書かれていて、面白く読みました。
周りがいい人すぎるとか話が上手すぎるというレビューもありますが、その答えが、主人公を生理的に嫌う元パート同僚の手紙にあるような気がしました。その手紙を読んだ主人公の反応も面白い。
この話もさらに深まっていけばもっと面白くなる。もっと梨木香歩の力を見せて欲しい。
虹
“虹”、“金色野原”どちらも手蔦葵さんの魅力が十二分に出ています。
pianoとゆったりとしたストリングスの調べが、大きな愛にそっと優しく包み込まれる感じにさせてくれます。
映画ゲド戦記の主題歌“テルーの唄”とはまた違った良さを感じました。
f植物園の巣穴 (朝日文庫)
梨木さんの作品の中では、「家守奇譚」と「沼地のある森を抜けて」に近い印象。
なので、「西の魔女が死んだ」のように、あたたかく爽やかな読後感を期待すると少し驚くかも知れないですね。
日本古来の神々や四季折々の動植物が不思議な存在感を放っている点では「家守〜」ですが、本質的なテーマは「沼地〜」に近い、というか同じ?な印象を受けました。
いずれも個々の人間と、それに関わる周囲との時間的なつながりと、その中で浮かび上がる人間の悲喜こもごもや優しさ、時にはおどろおどろしさが表現されています。
「沼地〜」が一族が蓄積してきた歴史やルーツの中に個を位置付けていたのに対し、こちらでは個が生活する上での周囲との関わりの時間の集積に目が向けられている印象です。
…という感じで私は受け取りました。
梨木さんの現在地を象徴するような様々なエッセンスがちりばめられているので、読み手次第で多様な受け取り方が出来る気がします。
深淵なテーマをあからさまに重くならないように表現できる梨木さんは素晴らしいですよね〜。
ただ、この作品については、少し文章がテクニカルに過ぎる感があることと、個人的には「りかさん」のような奇妙さと爽やかさの案配が好みということもあり、星4つ。