山猫 [DVD]
まず、ソフトについて…ジャケットデザインが素敵。ブルーレイ版の威厳あるデザインも素敵だが、このDVDも負けていない。
そしてソフトの品質は…。 既に他の方々のレビューにもあるように音質は平板。(優雅なニーノ・ロータの音楽は素晴らしい)
だが、画面の美しさは格別。 貴族生活の調度品や衣装、食事、宝飾品、また、美しいシチリアの風土、民家、風、砂。 それらをもらさず再現しているように思う。 また、色味が素晴らしい。空の青はどこまでも青く、赤も、緑も、青もくっきり、白もしっかりと白い。 予告編に収録されていた2004版の修復映像と比べても全てのおいて段違いだ。
50年前(!!)の映画がここまで美しく修復できるとは…。
『階級が交代するだけだ』 (サリーナ公爵)
日本、ドイツ、そしてイタリアの三国(後の枢軸国)は19世紀に急速に近代国家に変貌した点で共通する。 急激な変化は多くの軋みを生み、そして物語も産んだ。本作はそんな19世紀イタリア統一戦争時の物語だ。
まず、序盤の統一戦争のシーン(8分程)は直接的な描写でかなりの迫力。 ヴィスコンティが本気で撮った戦争シーンだ。
だが、本当に迫力あるのは後半の伝説的な舞踏会の部分。 オールナイトで展開される舞踏会でのドラマ。 ここで新世代と旧世代の交代が強烈に示される。 輝くように豪華絢爛な大舞踏会が退場の時期が迫る貴族階級の影を作り出す。 自らの死と貴族階級の死を強く予感するサリーナ公爵を中心に描写した枯淡の味わい。
『偉い人を理解するのは難しいのだ』 (ピローネ神父)
サリーナ公爵は本作の最大の見所と言い切れる。 力強い立ち振る舞い、背筋、青い目の美しさ。 一族の神のように振舞う威厳ある家長。 確かな状況分析。 そして教会と貴族の支配者としての微妙な共犯関係への理解。 だが、同時に老いを自覚し、さらに本質的には自らが属する貴族階級以外のものに興味を持たない。 そして、それらが欠点であり、そのために未来を担う資格(?)はないとも自覚し、自らとその階級が滅びることも予感している…。 その悲しい自覚のため新世代の野心家タンクレディに惹かれてもいる…。
非常に魅力溢れる主人公だ。この複雑な主人公を演じきったバート・ランカスター…。 萌えました…。 二回目以降の視聴時はサリーナ公爵ばっかり追っていました。(私の大好きなドバ・アジバとかドレイク・ルフトのルーツはここですね)
妻のへそを見たことがないのだ…というくだりは可笑しかったけど。
『現状を肯定するものに向上は望めぬ』 (サリーナ公爵)
野心家として革命軍に身を投じ、更に国軍へ移り、上院への立候補も決意するタンクレディ。 限りなく上を目指す若い野心家を演じたアラン・ドロン。
エキゾチックな強い(怖い)目線が印象的で、舞踏会が楽しみで堪らないというクラウディア・カルディナーレ演じるアンジェリカ。
二人は現状では足りないのだ。 つねに向上を目指す若々しいエネルギー。 まさに、新世代の肉食系のカップル。 だが、自省的な視点は持たずサリーナ公爵とはあまりにも対照的だ。
『新旧二つの体制に跨って生きている人間だ』 (サリーナ公爵)
新時代の到来と自らの退場を予期するサリーナ公爵。 新世代の二人を見る目に光る涙が胸に残る。 人生の去り際とはどんなものなのか。 早朝の路地に消えてゆく死の予感に満ちたラストも印象的。
…この映画のラストはこれからも私のなかに広がってゆくに違いない。
これだけの巨大な映画、そんな簡単に味わいつくせない。 まさに本物の映画を観た思い…。 実は…告白すると、本作はこのソフトが初見…。 衝撃的でした。
といったわけで、このDVD、内容・品質ともに素晴らしい。
…だが、私は本作を主に経済的理由から (つい) DVDで購入したものの…、これほどのものならブルーレイで買うべきだったろうか、と思ってしまう…。
山猫【字幕版】 [VHS]
バート・ランカスターは、「OK牧場の決闘」(ジョン・スタージェス監督)、「アパッチ」(ロバート・アルドリッチ監督)、「プロフェッショナルズ」(リチャード・ブルックス監督)、などの西部劇で男らしい役柄を演じ、また、「ヴェラ・クルス」(ロバート・アルドリッチ監督)では共演の大スターでランカスターの大先輩でもある、ゲイリー・クーパーをも食う濃い悪役を演じて話題になった。”アパッチ”で、ランカスターが大勢を相手に戦うシーンでは彼はとても野性味にあふれていた。 また、西部劇のみならず、ジョン・フランケンハイマー監督と組んだ、「大列車作戦」などのアクションでも持ち味の男らしさを発揮していてカッコよかった。
しかし、この「山猫」では、力強い西部男ではなくてイタリアの公爵を演じていた。とてもこれまでの作品から見るとランカスターが適役とは思えないが、実際見てみると彼に勝る人はいなかっただろう。ルキノ・ヴィスコンティはスペンサー・トレイシーを推したらしい。風格の点ではトレイシーも劣らないが、やはり、迫力の点ではランカスターの方が上だ。アラン・ドロンもランカスターの影に隠れていた。やはり、彼のスケールの広さはこの映画に適していた。また、ヴィスコンティは彼を気に入ったらしく「家族の肖像」でまた使っている。
ところで、ニーノ・ロータの音楽も良かった。ニーノ・ロータとフェデリコ・フェリー二は長年コンビを組んでいたのだが、ニーノ・ロータの音楽なしではフェリーニのヒット作品はなかったという。彼の音楽はそれほどに重要だった。 すべての事を考慮して、この映画は、星5つをつけることのできる映画だった。
山猫 (河出文庫)
映画の公開にあわせて、文庫版を手にしました。
近代イタリア史は、主に「北部」からの視点で語られており、「南部」
の視点からの「統一」を扱ったものに初めて触れたこともあり、大変
新鮮な感動がありました。
作品自体の格調の高さ、小説としてのおもしろさもさることながら、
南イタリア(特にシチリアの)気質について、細かく述べられている
点が、この作品のひとつの特徴になっていると思います。
翻訳小説なので、最初は取っ付きにくさも感じたのですが、
魅力的な登場人物、的確な背景の描写で、一度引き込まれてしまうと
一気に読み通してしまいました。
くまとやまねこ
生に死を織り交ぜて、文を紡ぐ湯本さん。
一枚の絵で、刹那に永遠をとどめる酒井さん。
世界が待望した夢のコラボレーションです。
まるで本当の生きている時間のように、一頁、一頁がずしりと重く、しかし、しっかり進んでいく。
くまとやまねこの深い深い心の通い合いに美しいものを見た気がします。
悪なあなた~歌謡番外地
太田とも子さんの「恋はまっさかさま」「とおく群衆を離れて」は、素晴らしいです。
この歌。色気・こぶし・可愛さ・どす・気だるさ・かっこよさ・上手さ・個性・・・こんなにもバランスのいい歌い手さんはいないように思います。歌謡の華やかさから一歩はなれつつ、やさぐれすぎない・・・そんな感じ。
「恋はまっさかさま」は、歌謡曲の中ではピカイチです。上下するメロディー、やられる歌詞、イントロAメロBメロサビの急展開、サイケなオルガン、歌謡ファンはドストライクと思われます。
「山猫の歌」は、言うまでもなくやられます。なかなかない歌ですよ。ファンキーで這い上がってくるようで・・・ギターもベースもよくこんなむつかしい曲を、というバックの演奏にも感心します。ニヤリです。