美妙、消えた。
2010年は山田美妙(1868〜1910)の没後100年にあたる。
「言文一致体」の先駆者・美妙は二葉亭四迷、尾崎紅葉、夏目漱石らと同時期に活躍し、スキャンダルな私生活とあわせて一世を風靡した作家で、石川啄木や太宰治のさきがけのような人だ。
が、こんにち、美妙の作品はまず読まれることがない。
本書は美妙の著作と足跡を紹介しつつ、美妙の周囲の文士(作家)たちの動向も客観的な視点で捉えている。したがって、明治期の小文学史として読むこともできる。
さらに本書で特徴的なのは、嵐山光三郎その人が、ときおり顔を出すことだ。それは、さながら嵐山氏による江戸・東京下町散歩といった風情を醸しだしていて、ほかの類書にはない魅力となっている。
美妙の作品が現在ほとんど読まれることがないのと同様に、本書も文庫化されないまま忘れられようとしている。残念でならない。
ちなみに美妙は東京出身だが、ルーツは南部藩士(現在の岩手県)だ。その資質は現在の北東北の作家に通じるものがある。