IX 謀反
『エスピオナージ』は渋くて熱くクールなハードボイルドチューン。
胸が切なく痛くなる緩やかな『ハドソン河』
まるで現在を予見したかのような『IC ワールド』
孤独な男の最後の心情をシンプルな楽曲で見事に再現した『サイレントマン』
熱く研ぎ澄まされた二人のボーカルが冴える作品集だ。
アリス(8)も必聴。
エスピオナージ
スパイ小説と言うより、防諜小説と言うのかな。国益に繋がる企業秘密や国家機密が流出しないように水際で活躍する外事警察の地道な取組みが、手に汗握るドラマとして描かれる。まだるっこい部分もあるが、一般人が知りえない捜査の手口などよく取材されている。読み物としてはテンポのよさと意外な展開が続き、先を読みたい気持ちにさせられる。ディテールを言えば、拉致された小野寺への同情を掻き立てる程の物が無いし、背乗り者達が何の目的で存在したのかもあまり明確で無く、韓国情報筋やCIAが出て来るシーンも最後にドドッと出て来るのも説明不足かと思う。ただ日本を取り巻く政治情勢等の変化のお陰で、今まで見なくて済んだものが表に出て来る時代だから、外務官僚やジャーナリストと違い地を這う「インテリジェンス」も知る意味はあるかと。
エスピオナージ(トールケース仕様) [DVD]
最近、絶好調のフレンチホラー(これは、サスペンスですが)文脈のこの映画は、餓鬼の頃の恨みは忘れないと言う、正に豪速球な仏版『オールドボーイ』になってます。物語は、妻と離婚係争中のグラビアカメラマンの男が、突然代役で来たモデルより、レイプで訴えられるは、殺人の濡衣を着せられるは散々な目にあわされるサスペンスです。億万長者の娘である妻ならともかく、離婚したらすっからかんの男が、何故、はめられなければならなかったか?そこには、中学時代の肝だめしがあったのです…。『オールドボーイ』は、姉との○○○○がばらされた事で、自殺した姉の復讐でしたが、この男の、餓鬼の頃の恨みも強烈です。俺もこれされたら恨みます。蛇の様にしつこいとされるこの男の面も、この恨みの理由が解った後見ると、短髪に髭メンという、その筋の兄貴にもてそうな感じ。子供の頃から、素質あったのでしょう。あっ!ちょっとバレちゃった…。
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冷戦の時代にはより現実感があったと思われるが、ソ連崩壊後の現在では多少現実離れの感が強い筋書きではあるものの、スパイの虚々実々の駆け引きを描いたスリラーとしては良く出来ており、最後まで緊張感を持続することに成功している。また登場人物が、ユル・ブリンナー、ヘンリー・フォンダ、ダーク・ボガード、フィリップ・ノワレと各国の有名俳優によって演じられていることも魅力のひとつとなっている。
帰国を命じられた在仏ソ連大使館武官がパリ空港警察に亡命を求めてくるところから物語は開始される。その武官が実はKGBの大物スパイであり、西側政府に潜り込ませたソ連スパイリストを持参していると称したことから米国をはじめ西側諸国を巻き込む大騒動となって行く。時を同じくしてリストに上がっている容疑者が次々と謎の死を遂げて行き、果たしてリストは本物か、武官の目的は何か、さらにその背後に動く謎の人物は誰かなど、サスペンスの道具立てが見事に組み合わされ、最後まで飽きさせずに緊張感を持続させることに成功している。最近の映画に多い派手な立ち回りではなく、静かな会話によって緊張感を作り出すことが出来た時代の貴重な遺産とも言える。