脂肪のかたまり (岩波文庫)
3組の夫妻、2名の修道女、自由人、娼婦 ・・・ 主人公は存在せず、全ての登場人物は客観的に描かれている。
だから、誰かに感情移入してもいいし、現代人なら傍観者の立場で読むことが多いだろう。
馬車が前に進むためには、娼婦のブール・ド・シュイフが、敵の仕官に身体を赦す必要があった。
娼婦はそれを頑なに拒む。
しかし、周囲の人間がそうさせまじと必死になっていく。
彼らにも最初は小さな良心があったのだが・・・。
後押ししたのは、彼女が仕官に選ばれたことを、女たちが妬ましく思えてきたからではなかろうか。どうして自分ではないのか、と。
ともかく、ブール・ド・シュイフの決断によって物語は進む。
この物語には、集団の中での倫理や人に言えない偏見、エゴイズムが詰まっている。題名からしてあつかましい。
すぐに読める短編作品だが、いろんな人の立場で読んでみると違った理解ができて興味深いと思う。
モーパッサン短篇選 (岩波文庫)
気晴らしに読める短篇をと思い、本書を手に取った。
物語に登場する人がストーリーを語るものが多く、ついつい話に引き込まれてしまった。
各話の結論も巧妙だ。ユーモアが利いたブラックジョークや、奈落の底に突き落とされるような裏切りがあったかと思えば、余韻を残してそのまま過ぎ去るものまでさまざま。
また、情景描写がすごくいい。絵画や写真のように止まっているのではなく、揺らめいているようなリアリティを感じた。
フランスの土地勘はないけれど、想像の中で補っていける範囲だと思う。
話が短いから、少しの時間できりがいいところまで読める。
外国文学は小難しそうと敬遠している人にもおすすめしたい1冊。
女の一生 (新潮文庫)
私が一番愛してやまない本です。
夢見がちな修道院育ちの主人公の女性が、結婚を機に現実に直面し、打ちひしがれていく姿と、それとは対照的に男に裏切られながらも、たくましく生きる下女の姿を対照的に描きます。
現実は甘くないということ、夢を見るより現実を直視して人生をわたる者の方が上手く渡っていけると言うこと、主人公は客観的な現実をみずに夢をみるから裏切られるのだと言うことが、如実に表現されています。
現代の女性が読んでも、女性が楽しく強く生きるためには、何が必要かを示唆する、素晴らしい本だと思います。
男性・女性 HDニューマスター版 [DVD]
この映画は、当時のフランスのアイドル歌手、シャンタル・ゴヤの主演映画として企画された。ヌーベル・ヴァーグの騎手として白羽の矢を立てられたのがゴダールだった。しかし、そこはゴダール。ただのアイドル映画をつくるわけがない。『大人は判ってくれない』でデビュー以来、ヌーベル・ヴァーグに欠かせない男優、ジャン・ピエール・レオとシャンタル・ゴヤをカップルにして、瑞々しい青春映画を作り上げた。
演技の出来ない若い役者たちの新鮮な表情を引き出そうと、ゴダールはインタビューという手法を用いた。脚本にセリフを書かず、ジャン・ピエール・レオにイヤホンをつけさせ、ゴダール自身が若い女優に聞きたいことをどんどん質問する。それをジャン・ピエール・レオがセリフとしてぶつけていく。予想もしない会話の展開に本音で答える若い女優たちがとても面白い。
この他にも当時としては画期的な撮影方法をいろいろ取り入れているのだが、それでも、作品全体として青年期の男女の恋や友情や焦り、悲しみ、希望といったものをしっかりと定着させている。スイスからフランス・パリに移り、ボヘミアン的な生活をしていたというゴダールのもっとも自伝的な要素の強い映画だろう。